研究課題/領域番号 |
21K11719
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
輿石 一郎 群馬大学, 大学院保健学研究科, 教授 (20170235)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | フェロトーシス / サルフェン硫黄供与体 / 活性イオウ分子種 / トリスルフィド化合物 / 虚血再灌流障害 / サルフェン硫黄 / ニンニク / ジアリルトリスルフィド / ジメチルトリスルフィド |
研究開始時の研究の概要 |
フェロトーシスは、細胞質内のLabile Iron(作用物質は二価鉄イオン)が、生理機能の一環として生成する脂質ヒドロパーオキシドのO-O結合を“1電子還元”することで生じる脂質活性酸素種による細胞機能障害である。フェロトーシスが申請者の研究に転機をもたらしたのは、脳虚血再灌流障害による神経細胞死がフェロトーシスである可能性が提唱されたことによる。このことは、フェロトーシス細胞死の誘導機構を解明することが“虚血再灌流障害に対する抵抗能を高める障害予防法の開発”に道を拓くものである。本研究では、細胞の持つ1電子還元能を標的としたフェロトーシス細胞死の制御の可能性について検討する。
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研究実績の概要 |
極度の低酸素により誘導される細胞死はフェロトーシスによる。多くの組織は、小規模な虚血再灌流を常に繰り返している。その結果、永年にわたる実質細胞・血管内皮細胞等の慢性的な障害が、結果的に生活の質を低下させ、健康寿命の短縮をもたらしている。Fibrosarcoma細胞株HT1080細胞をSystem Xc-の阻害剤であるエラスチンで処理しフェロトーシスを誘導後、ニンニクの抽出成分であるジアリルトリスルフィド(DATS)、キャベツ、ブロッコリーおよびネギの抽出成分であるジメチルトリスルフィド(DMTS)を培地に添加することで細胞死は阻害され、一旦低下したグルタチオン濃度の回復が認められた。フェロトーシス細胞死の直接の原因は、脂質ヒドロペルオキシドが遊離二価鉄による1電子還元を受け脂質アルコキシルラジカルとなった後に引き起こされる脂質ラジカル連鎖反応の結果、多量に産生される活性カルボニルによる細胞内タンパク質の翻訳後修飾によると考えられている。活性カルボニルは求電子反応性物質であり、タンパク質中スルフヒドリル基やヒスチジン残基等の求核性官能基を翻訳後修飾する。その代表例は4-Hydroxy-nonenalである。システイン残基にサルフェン硫黄が付加したヒドロペルスルフィド(R-SSH)は強力な求核反応性物質であることが知られている。しかしながら、細胞内にmM濃度で存在するグルタチオン(G-SH)にサルフェン硫黄が付加したグルタチオンヒドロペルスルフィドは、高濃度グルタチオン存在下で極めて不安定であり、酸化型グルタチオン(G-SS-G)と硫化水素を生成する。令和5年度は、細胞内でDATSおよびDMTSが如何なる機序により細胞内で安定型ヒドロペルスルフィドを産生するのかについて検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DATSおよびDMTSがスルフヒドリル基の求核攻撃を受け生成する低分子ヒドロペルスルフィドは高濃度にチオール化合物が存在する環境下では速やかにジスルフィド化合物と硫化水素に分解される。よって、高濃度にグルタチオンが存在する細胞内ではトリスルフィド誘導体由来のヒドロペルスルフィドが安定に存在することはない。その一方で、高分子であるタンパク質中ヒドロペルスルフィドは比較的安定に存在することが知られている。そこで、モデルタンパク質としてヒト血清アルブミンを用い、ヒト血清と同濃度の4%ヒト血清アルブミン溶液中でのDMTSの挙動について検討を行った。ヒト血清中には、およそ0.45 mMのメルカプトアルブミンと、およそ0.15 mMのノンメルカプトアルブミンが存在する。4%ヒト血清アルブミン溶液に10-100 μMとなるようにDMTSを添加すると、37℃において10分以内にDMTSが消失し、DMTS1分子当たり2分子のアルブミン―メタンチオール混合ジスルフィド(Alb-SS-CH3)と1分子のアルブミン結合型ヒドロぺルスルフィドが生成した。その機序について検討した結果、①メルカプトアルブミンのシステイン残基とDMTSとの反応にとりAlb-SS-CH3とメタンチオールヒドロペルスルフィドが生成し、②引き続き、メタンチオールヒドロペルスルフィドとメルカプトアルブミンとの反応によりAlb-SS-CH3と硫化水素が生成し、③この硫化水素がアルブミン中分子内架橋であるジスルフィド結合と反応することでヒドロペルスルフィド基を生成することを明らかにした。以上より、細胞内において、高濃度に存在するスルフヒドリル基にサルフェン硫黄を付加するのではなく、タンパク質に普遍的に存在するジスルフィド架橋を硫化水素が求核攻撃しヒドロペルスルフィドを生成することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
フェロトーシス研究は、がん細胞を死に至らしめる新たな抗がん剤治療としての可能性を秘める。しかしながら、その一方で、がん組織には口腔由来の口内細菌が定着し、がん細胞と共存することが報告された。その根拠として、口内細菌が産生する悪臭成分であるDMTSががん組織から放散されるとの事実による。さらに、がん組織深部では、極度な低酸素の結果、がん細胞がフェロトーシス細胞死を起こすことが明らかにされた。本課題研究では、DMTSががん細胞のフェロトーシス細胞死を抑制することを明らかにしてきた。研究期間を延長した令和6年度は口腔細菌を活用したがん細胞の生き残り戦略について検討する。
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