研究課題/領域番号 |
21K11767
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分60020:数理情報学関連
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山下 真 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (20386824)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
|
キーワード | 応用数学 / 数理最適化 / 半正定値計画問題 / 錐最適化 / 双対問題 / 射影勾配法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では、対数行列式付き半正定値計画問題に対する効率的な数値計算方法の構築を行う。このような数理最適化問題は、データにおける変数間の相関関係の解析などにも利用されており、大規模なデータを扱うには短時間で求解可能な数値計算方法が必要である。 これまでに双対射影勾配法を提案してきたが、本研究では、変数行列へのコーダル分解に基づく計算時間の短縮および変数のクラスタ分割への対応の2項目を中心として双対射影勾配法の改良を行う。
|
研究実績の概要 |
錐最適化は線形計画問題、二次錐計画問題、半正定値計画問題などを含む数理最適化問題のクラスであり理学や工学に幅広い応用を持っている。本研究課題の研究対象である対数行列式半正定値計画問題もこのクラスの一つとして捉えることができるが、目的関数に変数行列の行列式の対数関数を含んでいるのが特徴であり、これによりグラフィカルモデルなどでは重要な情報の抽出をこの問題に定式化可能である。指数関数に基づく変形を行えば既存のソフトウェアも適用可能ではあるが、一定以上の規模になると求解に長時間を要するため効率的な計算手法の構築が必要である。本研究課題では、対象となる問題の双対問題に対して射影計算を利用する双対射影勾配法の改良を行っており、本年度は主に以下の項目を実施した。 1.目的関数における正則化項の一般化を考察し、これまで進めてきたクラスタ分類情報の抽出を含む拡張を行った。双対射影勾配法の計算効率を考慮する場合、双対問題の実行可能集合への射影にかかる計算コストが全体の計算コストにも影響が大きいため、この解析を行った。また、構築している計算手法の生成する点列の収束性についても、従来の解析手法を発展させることで一般化された正則化項に対する解析を進めた。 2.入力データに疎性が入っている場合に変数行列をコーダル分解の理論に基づき小規模な複数の変数行列に分解を行った。通常の線形の半正定値計画問題では、複数行列への分解から元の全体行列への復元を可能とするために等式制約の追加が必要となるが、対数行列式の場合は目的関数に行列式を含むために、その対応についても検討を行った。 3.錐最適化問題の理論的解析として、3次テンソルを用いた半正定値計画緩和の解析を行い、制約付き多項式最適化問題に対する3次テンソル半正定値計画緩和を提案した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
双対射影勾配法の拡張として本研究課題で最初に検討していたクラスタ分類情報による定式化は、双対問題の実行可能集合への射影が効率的に行えることから数値実験においても十分な計算時間の短縮を達成している。現在は、これを発展させてクラスタ分類情報以外の正則化項も扱えるように理論的な拡張を行っている。クラスタ分類情報では線形写像とell-1ノルムからなる項であり、ell-1 ノルムに関する近接項の計算が比較的容易に得ることができた。この数理的構造を継承しつつ、他のノルムや線形写像でどのように一般化が行えるかの検討を行っている。一部については数値実験などを行い、制約を含まない問題では既に双対ギャップが十分に小さくなり最適解が得られることを確認できた。また、近接項の計算の詳細確認なども進めている。 3次テンソルを用いた半正定値計画問題は、テンソルにおける半正定値性などを用いて、制約なしの多項式最適化問題の半正定値計画緩和を導出する方法が既存手法で既に提案されているが、本研究課題では、これを制約付き多項式最適化問題にも適用可能であることを示している。特に、巡回ブロック多項式に分解するときに多項式の次数に要求される条件などを明らかにしており、この条件を満たせば緩和次数を増加させることで元の多項式最適化問題の最適値に収束することを解析した。数値実験においても、次数の条件などを満たす多項式最適化問題では、計算時間の短縮を確認できた。特に、多項式最適化問題から半正定値計画問題を生成するステップに高い効果が得られた。また、巡回ブロック多項式に変形する過程で変数行列のサイズが縮小されることがあるが、特定のテスト問題においては、これによって数値的安定性が向上し、より正確に最適値の近似値を得られる場合などもあった。
|
今後の研究の推進方策 |
正則化項の一般化では、これまで行ってきたテスト問題なども整理して大規模な問題に対する数値実験も行い、計算時間などの観点から評価を行う。既存のデータからの結果に対してはパラメータ調整を実施し、提案手法の実用性を高めることも推進する。また、双対問題の実行可能集合への射影と近接項の計算量などの解析を行い、双対射影勾配法全体の計算量の理論的解析も行う。特に、近接項の計算にニュートン法などによる反復計算が必要となる場合に、従来の収束解析が直接適用できる範囲も検討が必要である。一方で、双対射影勾配法では、変数行列の逆行列計算が主なボトルネックの一つであり、これの軽量化が行えるかどうか、という視点も計算時間の削減では重要である。近似計算の導入や前反復の情報を利用したりするなどの工夫についても適宜取り入れを考えたい。 コーダル分解により変数行列を複数の小規模な変数行列に変換する手法は、従来の双対射影勾配法を直接適用することが困難であることがこれまでの解析で判明しており、双対射影勾配法や内点法を内部反復とするような計算手法の構築を継続して行う。また、外部反復の収束性については既存の論文の解析を改良することを想定している。複数の変数行列の分解に関しても、極度に小規模の行列に分解してしまうと計算効率が改善しないことがあるため、どの程度まで分解を行うのが全体としての効率改善に寄与するかを評価式などにより検討しながら行うこととする。一方で、コーダル分解による計算時間短縮の効果は線形の半正定値計画問題においても、問題の疎性構造に大きく依存している。本研究課題では対数行列式を目的関数に含んでいることから、疎性構造への依存傾向にどのような影響を与えるか、についても、数値実験を通して明らかにすべき点の一つと考えられる。
|