研究課題/領域番号 |
21K11928
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分60100:計算科学関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
仲田 晋 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (00351320)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | シミュレーション / コンピュータグラフィックス / 3次元形状表現 / 計算機シミュレーション / 有限要素解析 |
研究開始時の研究の概要 |
力学的な現象のシミュレーションでは3次元形状の表現が重要であり、本研究課題ではこのシミュレーションに適した3次元形状の表現手法の確立を目指す。従来のCAD等ではシミュレーションが難しい場面においても対応しやすい新しい形状表現手法を開発することが本研究課題の独自性である。特に、少ないデータ量で複雑形状を表現できるか、その形状をリアルタイムで描画できるか、解析対象の形状情報から有限要素メッシュを生成できるかといった問いに対し、数理的な手法を用いて解決策を講じることで実用的な手法の開発を行う。応用事例としては発泡金属の材料特性の解析を想定し、有限要素解析における本手法の効果を確認する。
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研究実績の概要 |
本研究課題の目的は力学現象のシミュレーションに適した3次元形状表現の確立である.2022年度においては2つの応用を想定した形状モデリング技術の開発を進めた. 1つ目は材料力学への応用を想定し,発泡金属材料のシミュレーションのための形状モデリング技術の開発を行った.発泡金属は多くの気泡を含む材料であり,軽量であると同時に衝撃吸収の用途での活用が期待されるため,その材料特性を解明することが重要な要求となっている.この発泡金属の複雑な形状は陰関数形式で効果的にモデル化できることが知られている.一方,この形状を有限要素解析につなげるためにはいくつかの課題があり,特に (A) 陰関数形式で定義された形状を多面体として正確に抽出すること,(B) 正確な有限要素解析のためのソリッドモデル(体積を持つ形状を四面体で近似する)として抽出すること,(C) 効率的な有限要素解析のためのシェルモデル(体積を持つ形状を体積を持たない面で近似する)として抽出することが重要な要求となっていた.本研究課題では (A) (B) (C) の3つの要求をすべて満たす形状抽出手法を開発し,その有効性を検証した. 2つ目は医療への応用を想定し,血管吻合部における血流シミュレーションのための形状モデリング技術の開発を行った.冠動脈の疾患においては冠動脈バイパス術が必要となるケースがあり,血管のつなぎ方と術後の血液の流れの関係を明らかにすることで医療の発展に貢献することが目標である.血管形状を陰関数形式として定義することで血管のつなぎ方のバリエーションを表現しやすくなり,さらに粒子法と呼ばれるタイプの流体シミュレーションの計算に適するという利点を生かすことができる.現時点では十分な検証はできていないが,一定の有効性が確認できている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画であった複雑形状のモデリングとシミュレーションへの応用について,今年度の研究活動を通して一定の成果が得られており,現在は次年度でのさらなる発展に向けて活動を継続している. 1つ目の主な取り組みである発泡金属の形状モデリングにおいては,有限要素法による力学特性の解析に適した多面体形状を生成することに成功している.ここで想定している有限要素解析は2通りあり,1つは正確性を重視した大規模ソリッドモデル,1つは効率性を重視した小規模シェルモデルである.先行研究では発泡構造形状を数学的に定義する手法が提案されており,この数学的な記述をソリッドモデルとシェルモデルの2通りの多面体として抽出することで有限要素解析につなげることがこの取り組みの狙いである.多面体抽出はボロノイ図と呼ばれる領域分割手法を応用することで実現し,その有効性も確認できた.同時にシミュレーションへの応用も進めており,本来の目的は力学特性の分析であるが,今年度は発泡形状による光の遮蔽効果の分析を想定したシミュレーションを行っている. 2つ目の主な取り組みである血流シミュレーションのための形状モデリングについては,冠動脈バイパス術を想定した血管形状のモデリング,および粒子法と呼ばれる流体シミュレーションへの応用を行った.冠動脈バイパス術は既存の冠動脈にバイパスとなる血管をつなげることで血流の改善を図る施術であり,血管接続部における血流を計算機シミュレーションで分析することが重要な課題となっている.今年度は冠動脈バイパス術を模した簡易的な血管形状を陰関数形式で表現し,陰関数形式の血管と粒子法を組み合わせたシミュレーション手法により血流の分析が可能となった.現時点では簡易的なシミュレーションであるため,次年度においてはCT断層像から抽出した血管形状において適切なシミュレーションを行うための技術開発に取り組む予定である.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究活動により,陰関数形式による3次元形状を利用したシミュレーションが一定水準で達成されており,今後は特に材料工学分野および医療を想定したシミュレーションの分野での具体的な応用とその有効性の検証を進める.遂行に支障がある場合,有限要素解析の種類を簡易なモデル(シェル要素)に変更することでの解決を検討する. 材料工学での応用としては引き続き発泡金属の力学特性の解明を目的とした3次元形状の陰関数表現の活用を進める.乱雑な気泡を多く含む発泡金属形状は陰関数形式で定義することが可能であり,この定義に基づいて有限要素解析による物理現象の分析をするためには形状を多面体として抽出する必要がある.有限要素解析では材料形状を単に多面体として表現するだけでなく,多面体の質も重要となる.一般的な手法では抽出された多面体が極端に短い辺を持つことがあり,これが有限要素解析の計算規模や計算精度の観点で悪影響を与えやすい.したがって,本研究課題では有限要素解析に適した多面体の抽出を目的とし,いくつかの物理現象のシミュレーションを通して本手法の有効性を確認する. 医療を想定したシミュレーションでは血管形状を適切に陰関数形式で表現し,血流に関する有益な知見を得ることを目標とする.血管を陰関数で表現することの利点は,複数の血管形状を融合することで血管の分岐個所の形状を適切に表現できること,および複数の血管の中間形状を陰関数形式で表現することで血管形状の連続的な変化をパラメータ制御できることである.これにより,例えば血管の接続部の形状と血流の関係を観察することが可能となり,血流に関する医学的な知見を提供できると考える.遂行に支障がある場合,血管形状の実データではなく,人工的な3次元形状モデルに置き換えることにより一定の医学的知見を提供できる可能性もあるため,代替案として検討する.
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