研究課題/領域番号 |
21K12057
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分61040:ソフトコンピューティング関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
藤崎 礼志 金沢大学, 電子情報通信学系, 准教授 (80304757)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 記号力学系 / 位相的エントロピー / 辺シフト / ソフィック・シフト / 非対称2進数系(ABS) / k進ネックレス / β進展開 / k進 de Bruijn 系列 / 自己相関関数 / 超離散力学系 / マルコフ連鎖 |
研究開始時の研究の概要 |
Duda が提案したストリーム型データ圧縮アルゴリズム非対称2進数系 (asymmetric binary systems (ABS)) の性能を評価するために,サブスティテューションと呼ばれる力学系に基づき,ストリーム型 ABS の状態の確率分布を陽に導出する.ランダム超離散カオス力学系に基づき,ストリーム型 ABS の情報源符号化により得られる,有限タイプのシフトの位相的エントロピーを評価することによって,平均符号語長が情報源のエントロピーに達する機構を明らかにする.ストリーム型 ABS の符号化機構の性能解析を行うと共に,アルゴリズムを最適化し,M2M (機械対機械) 通信へ応用する.
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研究実績の概要 |
Duda が提案したストリーム型データ圧縮アルゴリズム非対称2進数系 (asymmetric binary systems (ABS)) はエントロピー符号化であり,実用上優れた性能を有するが,未だその符号化機構は明確でない.アルゴリズムは状態パラメータl(正の整数)と確率パラメータp(0<p<1)を有し,pとlをうまく与えないとアルゴリズムが動作しないという欠点がある.それに対し,本研究代表者は,アルゴリズムが正しく動作するために,pとlが満たすべき必要十分条件を既に与えている[IEICE,2020].アルゴリズムが正しく動作するとき,アルゴリズムは既約な有限状態マルコフ連鎖を構成する.連鎖を表現するグラフをGとする. 本研究では,まず,アルゴリズムの符号化によって出力される記号力学系を表現するために,Gを変形し,ストリーム型ABSの出力に同伴する有限グラフHを構成した.これにより,辺シフトX_GとX_Hを得る.Duda のアルゴリズムにより,両者に一対一写像が存在することが保証される.次に,X_GとX_Hの位相的エントロピーが等しいことを示した.これは符号化と復号化で得られるソフィック・シフトが有限同値であることを意味する.ストリーム型ABSアルゴリズムが位相的エントロピーを保存するというのは,アルゴリズムの記号力学系的特徴付けである.さらに,記号力学系の手法を用いて,ストリーム型ABSに対するアルゴリズム解析を行ない,アルゴリズムによって得られる二つのソフィック・シフトが共役となる場合と概共役となる場合の例を示した.共役以外の場合,ストリーム型ABSの符号化および復号化はスライディング・ブロック符号ではない.共役となる場合,反復関数[x/2]はソフィック・シフトを表示するグラフの入分裂に対応し,ε動作は表示グラフの出融合に対応することを明らかにした[SITA2023].
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストリーム型ABSアルゴリズムは,pとlをうまく与えないとが正しく動作しないことを「研究実績の概要」で述べた.Dudaは,これを解決することなく,アルゴリズムを変形し,rABS(range variant of ABS)とtABS(table variant of ABS)を提案している.これらは元のアルゴリズムの近似である.実際,元のストリーム型ABSでは,pが無理数であることが必要であるが,rABSとtABSでは,pとして有理数が選ばれる.さらに,ストリーム型ABSでは,ε動作が存在するが,rABSとtABSでは存在しない.ε動作は出力長すなわち符号語長0を意味するので,ε動作を持たないrABSとtABSの平均符号語長は,ストリーム型ABSの平均符号語長よりも大きくなっており,データ圧縮の性能が劣ると予想されるが,ストリーム型ABSから生成されるマルコフ連鎖の定常分布が未だ理論的に与えられていないため,rABSとtABSの性能と元のストリーム型ABSの性能の優劣は明らかになっていない.rABSとtABSは,実用上優れた性能を有し,Facebook, Linux kernel, Android OS, Apple, Google などで使用されているが,元のストリーム型ABSアルゴリズムの符号化機構が明確でないため,アルゴリズムの最適化が本質的に困難である.本研究において,ストリーム型ABSに対する符号化および復号化アルゴリズムは位相的エントロピーを保存することを明らかにし,アルゴリズムの記号力学系的特徴付けを行ったこと,さらに,X_GとX_Hが共役であるとき,出力アルゴリズムの反復関数[x/2]とε動作が,記号力学系の符号化として,それぞれ,入分裂と出融合に対応することを明らかにしたことは,ストリーム型ABSアルゴリズムの符号化機構の理解と理論的解明に貢献したといえる.
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今後の研究の推進方策 |
ストリーム型ABSアルゴリズムの符号化機構を明らかにするために,ストリーム型ABSに対する符号化および復号化アルゴリズムの記号力学系的特徴付けをさらに発展させる.これまの研究で注目した位相的エントロピーは有限同値(finite equivalence)を決定する位相不変量である.位相力学系には,共役(conjugacy)よりも弱い同値概念として,流れ同値(flow equivalence)がある.位相的エントロピーは流れ同値の不変量ではない.辺シフトの間の流れ同値を完全に決定する不変量として,辺シフトを表現するグラフのr×r隣接行列Aに対するParry-Sullivan不変量D(A)=det(Id-A)とBowen-Franks群BF(A)=Z^r/Z^r(Id-A)がある.ここで,Idは単位行列を表す.「研究実績の概要」で述べたストリーム型ABSに同伴する符号化グラフGとストリーム型ABSの出力に同伴する復号化グラフHの隣接行列A_GとA_Hに対して,p=1/βでβが黄金比(1+√5)/2のとき,l=7,10,12,13,15, および18に対して,D(A_G)=D(A_H), BF(A_G)=BF(A_H)が成り立ち,それらの値はlに依存することを確認した.これは,辺シフトX_GとX_Hが流れ同値であることを意味する.この事実が一般的に成り立つことを示せば,ストリーム型ABSアルゴリズムは位相的エントロピーと同時に位相同値を保存することが言える.位相的エントロピーは流れ同値の不変量ではないので,ストリーム型ABSアルゴリズムは記号力学系的に興味深い特徴を有することが明らかになる. 現在,「研究実績の概要」で述べた今年度の研究結果を査読付き英文論文誌(IEICE Trans. on Fundamentals)に投稿中であり,本研究課題の成果として掲載されるように努力する.
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