研究課題/領域番号 |
21K12116
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分62010:生命、健康および医療情報学関連
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
阿蘇 司 富山高等専門学校, その他部局等, 教授 (30290737)
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研究分担者 |
原 正憲 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (00334714)
平野 祥之 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (00423129)
藤原 進 京都工芸繊維大学, 材料化学系, 教授 (30280598)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | DNA損傷 / 酸素効果 / Geant4-DNA / モンテカルロシミュレーション / 間接作用 / 量子化学計算 / トリチウム |
研究開始時の研究の概要 |
福島原発事故の処理水に含まれるトリチウムが、生態へ与える影響は社会的な関心事である。トリチウムが放出する低エネルギーβ線によるDNA損傷は、放射線の直接作用とともに、放射化学により生じたラジカルが起こす間接作用が影響している。この間接作用は、高酸素下で影響が大きくなり、酸素効果として知られている。本研究では、放射線によるDNA損傷のメカニズムを物理化学的視点から解明することを目標に、間接作用に焦点を当てて、ラジカル発生とその時間変化、更には酸素濃度の効果の寄与を組み込んだモンテカルロ法シミュレーションを開発する。そして、計算結果から、酸素濃度とDNA損傷の関係を評価することを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究は、原子レベルのモンテカルロシミュレーションを用いて、酸素がDNA損傷に与える機構とその影響を調べることを目的とする。昨年度までにGeant4-DNAモンテカルロシミュレーションを基盤にしたGalet-DNAを開発し、水中の溶存酸素量と活性酸素種生成量について計算を行い、更に量子化学計算と分子動力学計算を行ってDNA分子から活性酸素種が水素引抜き反応を起こす確率を研究した。本年度は、これらの結果を考察して詳細化を行うと共に、間接作用のモンテカルロシミュレーション・モデルを試作実装した。詳細を以下に説明する。 (1) Galet-DNA計算を用いて入射電子線エネルギー(2.5keVと5.7keV)と活性酸素種生成量の関係を調べた。高LETの2.5keVでは放射分解が密に生じるため、ヒドロキシルラジカルと水和電子が再結合して発生が抑えられていることが分かった。また溶存酸素量依存性に対しては、溶存酸素量が10%程度までの範囲でスーパーオキサイドアニオンとヒドロペルオキシルラジカルの生成量が急激に増加するが、ヒドロキシルラジカル生成量は変化しなかった。一方で、DNA分子の電荷分布や水素引抜き反応の活性化エネルギーから考察すると、酸素溶解度によらずヒドロキシルラジカルが間接作用の主要な要因であることが分かった。 (2) DNA分子のデオキリボースには、水素原子(H1~H5)がある。活性酸素種により水素引き抜き反応が起きてDNA損傷を引き起こす。各水素がヒドロキシルラジカルと反応する活性化エネルギーと接触頻度を計算して反応確率を求めた。Galet-DNA計算にデオキシリボース内の水素原子配置を導入して、活性酸素種と水素原子との反応確率を割り当てて、その反応の有無によってDNA損傷の有無を判断する計算モデルを試作した。各水素原子において測定と同じ割合で反応が起きることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的である量子化学計算や分子動力学計算の知見をモンテカルロ法シミュレーションに組み込み、溶存酸素量を考慮する評価を実施した。また、得られた個々の成果について学会発表を行った。今後、論文にまとめて投稿し、社会に公表を行っていくことが必要であることから、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Geant4-DNAモンテカルロシミュレーションに、分子動力学計算と量子力学計算の知見を取り入れた試作実装までを完了した。今後は、完成したシミュレーションを用いて測定や文献との比較評価を行っていく予定である。また、さらに間接作用におけるDNA分子構造とそのラジカル反応を詳細化するモデルの検討を始めている。具体的には、現行では分子動力学計算から得られたラジカルのアクセス可用性を反応率に含めて評価しているが、大規模なDNA分子構造の場合には、配位ごとにアクセス可用性が変化して複雑化することから、DNA分子形状や配位に応じて反応率を変化させる仕組みが必要である。そのため、DNA分子構造に対応してアクセス可用性を変化させる手法を検討して改良実装を行っていく予定である。
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