研究課題/領域番号 |
21K12130
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分62010:生命、健康および医療情報学関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
菊地 武司 立命館大学, 生命科学部, 教授 (90195206)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 結合自由エネルギー / ファインマン自由エネルギー不等式 / SARS-CoV-2 / 自由エネルギー不等式 / 創薬 / Covid-19 |
研究開始時の研究の概要 |
本課題では、創薬を強く念頭に置き、これまで代表者が提案してきたファインマンの自由エネルギー不等式に基づく相対的結合自由エネルギーの予測法に、reference interaction site model(RISM)理論を導入することにより溶媒和自由エネルギーの計算精度を高め、タンパク質-リガンド結合自由エネルギーの比較的計算コストは低くかつ予測精度の高い方法の開発を試みる。本研究では、これら従来法と同程度かそれ以上の予測精度をもちながら、計算コストの低い方法の開発を図る。さらに、改良した方法をSARS-CoV-2タンパク質阻害剤の開発に応用し、Covid-19治療薬候補の提案を試みる。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、ファインマンの自由エネルギー不等式に基づく相対的結合自由エネルギーの予測法(Method based on free energy inequality of Feynman (Method based on FEIF) に新たに溶媒効果を取り入れることである。これまでの方法(T. Ashida and T. Kikuchi, J. Comut-Aided Mol. Des. 27, 479 (2013),T. Ashida and T. Kikuchi, J. Comut-Aided Mol. Des.34, 647 (2020))では、分子動力学シミュレーションの部分は陽溶媒を用いていたが、ファインマンの自由エネルギー不等式による相対的結合自由エネルギー計算の部分は陰溶媒を用いた計算、すなわちMM-GB/SA法を用いている。そして、自由エネルギー摂動法(FEP法)、MM-PB(GB)/SA法、線形相互作用エネルギー(LIE)法と同程度の結果が得られている。本研究では、この部分の計算をreference interaction site model (RISM)理論を導入を目指す。それが成功すれば溶媒和自由エネルギーの計算精度が高まり、比較的計算コストは低いにも関わらず、タンパク質-リガンド結合自由エネルギーの予測精度の高い方法の開発が可能となる。現在FEIF法にRISM理論のFEIE法への実装を進め、Pim-1キナーゼの阻害剤の結合自由エネルギー計算への応用を始めている。新しいFEIF法をSARS-CoV-2に関連するACE阻害剤ドメイン-リガンド系へ応用し、Covid-19治療薬候補の提案を試みる予定である。またさらなる精度の向上を目指しZwanzigの相対的自由エネルギーの式の展開式の次数を上げた計算も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、FEIF法に溶媒効果を有効に取り込むため、RISM理論の実装を進めている。FEIF法では、まずタンパク質とリガンドの複合体のMDシミュレーションを陽溶媒を用いて行う。本研究では、300K、1atm、の環境下、20psecの昇温過程、20psecの平衡過程を経て10.2nsecのシミュレーションを行う。この際、リガンドとして、非摂動系リガンドと摂動系リガンドを対象とする。MDシミュレーションの後、FEIF法の手続きを行う。試験的に対象としてPim-1キナーゼの阻害剤を取り上げる。Pim-1キナーゼは、セリン/スレオニンキナーゼの一種であり、様々な組織で発現していることが知られ、その阻害剤はがん治療薬として期待されている。現在のところ、Pim-1キナーゼ(PDBコード:3BGQ)に対し、FEIF法にRISM計算を取り入れて、タンパク質ーリガンド相対的結合自由エネルギー計算を試みている。RISMモデルにはAMBERモジュールを採用した。これまでに、相対誤差が1.86kcal/molから0.12kcal/molへと大幅な改善がなされた。リガンドはtriazolo[4, 3-b]pyridazineを基本骨格とする。この傾向が様々なリガンドにおいて見られるか、パラメータ調整を含め検討を進めている。また別の角度からも精度を上げるため、Zwanzigの相対的自由エネルギーの式の展開式の第2項まで取り込むことも進めているところである。これが成功すれば、FEIF法においてより高い摂動の次数が求められ、精度は大幅に上がる。
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今後の研究の推進方策 |
すでにPim-1キナーゼ阻害剤については、いくつかのリガンドにおいて、予測した結合自由エネルギーの実験値との決定係数(相関係数の2乗)が0.7-0.8程度であることを確認している。この数値は本方法が成功していると見なせることを示している。現在、一般的に良好な結果が得られるか、パラメータ調整および確認を行っている。またRISM理論を導入することにより計算コストが増大することが懸念されており、その場合は水素原子などの効果を重原子に繰り込むunited atom modelを導入することを検討している。またZwanzigの相対的自由エネルギーの式の展開式の高次項を取り込むことも検討中である。これが成功すれば、FEIF法においてより高い摂動の次数が求められ、精度は大幅に上がる。 平行してSARS-CoV-2阻害剤のリード化合物の探索を試みる予定である。まずSARS-CoV-2タンパク質とangiotensin converting enzyme 2(ACE2)との相互作用を阻害する化合物の探索を試みる。SARS-CoV-2に感染した場合、コロナウィルスタンパク質とACE2が結合することにより、コロナウィルスが細胞にとりこまれ、症状が重篤化することが知られている。SARS-CoV-2タンパク質-ACE2複合体構造として、Protein Data Bank(PDB)に登録されている、PDBコードが6VW1であるものを用いる。その界面部分に結合可能な化合物を探索し、探索した化合物の結合自由エネルギーを本方法を用いて計算する。また別の候補はSARS-CoV-2ウィルスの3CLプロテアーゼの阻害剤である。このタンパク質とリガンドの複合体もPDBに登録されている(PDBコード;7K0G)。このタンパク質も本研究の対象とする予定である。
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