研究課題
基盤研究(C)
近年の東アジア地域においては大気汚染物質の排出動態が変化しており、それに伴い日本を含む東シナ海縁辺地域では、窒素酸化物由来の越境汚染の重要性が高まっている。窒素酸化物由来の主要な越境汚染成分である硝酸態窒素は、ガス状か粒子状か、無機か有機かで、大気環境だけでなく地球環境に対する影響も大きく異なる。本研究では、越境汚染を強く受ける西日本の清浄地域において、ガス状・粒子状別かつ無機・有機別での硝酸態窒素の連続観測を初めて実施し、それらの動態を明らかにする。
東アジア地域では近年、窒素酸化物の排出の寄与が相対的に大きくなっており、東シナ海縁辺地域における窒素酸化物由来の越境汚染の重要性が高まっている。硝酸態窒素は窒素酸化物由来の主要な越境大気汚染物質であるが、東シナ海縁辺地域で硝酸態窒素を詳細に調べた研究例はほとんどない。本研究では、越境汚染を強く受ける西日本の清浄地域で、硝酸態窒素について存在状態別でかつ、無機・有機別での連続観測を実施する。得られたデータを解析し、様々なパターンで越境輸送される大気中の無機・有機硝酸について、存在状態を含めた動態を明らかにする。令和5年度では、令和4年度末から引き続き、五島列島福江島において無機・有機硝酸の連続観測を令和5年5月まで実施した。また、同年11月から連続観測を再開し、令和6年5月まで実施予定である。無機硝酸については、観測期間のほとんどにおいて、粒子態の濃度がガス態に比べて高く、観測期間全体でのガス・粒子分配比は 22:78 であった。無機硝酸の濃度変動に関して、粒子態については濃度変動が主に長距離輸送に支配されている一方、ガス態については近傍での生成の寄与もあることを示唆する結果が得られた。近傍での生成過程として、硝酸アンモニウムの熱分解が挙げられるが、現時点で主な要因であるとは言えず、今後もう一つの要因である光化学生成も含めた更なる解析が必要である。有機硝酸については、観測期間全体を通じてほぼ 100% がガス態として存在していることがわかった。有機硝酸の濃度変動に関して、ONsについては濃度変動が主に長距離輸送に支配されている一方、PNsについては長距離輸送だけではなく、近傍での生成の寄与もあることを示唆する結果が得られた。また、PNs の長距離輸送による濃度変動に関しては、PNs の大気寿命と大陸から福江島への輸送時間のバランスに大きく影響している結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
令和5年度の研究計画は、令和5年5月まで長崎県福江島で無機硝酸と有機硝酸の同時連続観測を実施し、同年秋頃から観測を再開することであったが、今年度は予定通り観測を実施することができた。しかしながら、これまでのデータを精査した際、春季における粒子状無機硝酸について、濃度データの確度に一部疑義が生じたため、助成期間を延長し、追加で1年分 (令和5年11月~令和6年5月の予定) 無機硝酸と有機硝酸の同時連続観測を行う予定である。粒子状無機硝酸以外については、連続観測に支障をきたす大きなトラブルは生じておらず、おおむね順調に進展している状況と考えられる。
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