研究課題/領域番号 |
21K12236
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63020:放射線影響関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾田 正二 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (50266714)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | メダカ / 放射線 / 精巣卵 / p53 / rev1 / 低線量放射線被ばく / 低線量率放射線被ばく / ガンマ線 / トランスクリプトーム / 低線量率被ばく / 精子 / トランスクリプトーム解析 |
研究開始時の研究の概要 |
低線量(率)慢性被ばくの生物影響が生態系に与えるインパクトの評価のためには、動物自体が備える修復機能によってマスクされ潜在化されているリスクの評価が不可欠である。動物の精子機能は放射能感受性が最も高く、精子機能のダメージは長期の時間軸では生態系の不安定化をもたらすリスクともなる。本研究ではDNA修復関連遺伝子(rev1)を欠損するメダカにおける精原細胞の異常分化(精巣卵)を指標として、低線量(率)慢性被ばくが脊椎動物の精子機能に与えている潜在的インパクトを可視化し、そのリスクを評価する。また、精巣卵が放射線によって誘導されるメカニズムを解明し、生殖細胞の雄性化の分子メカニズムの解明に迫る。
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研究実績の概要 |
令和4年度では野生型メダカ(Hd-rR系統)およびtp53遺伝子欠損メダカの精巣においてシングルセルトランスクリプトーム解析を実施し、精原細胞が精巣卵に異常分化する際の分子機構の解明を進めた。野生型メダカおよびp53 遺伝子欠損メダカの精巣、および500 mGy のガンマ線を急性照射(100 mGy/1.6 seconds)した野生型メダカ(Hd-rR系統)およびtp53 遺伝子欠損メダカの精巣において得られたシングルセルRNA-seq のデータを解析し、ガンマ線を照射したtp53遺伝子欠損メダカの精巣において雄性生殖細胞として12 個のクラスターを同定し、さらに精巣卵として1個のクラスターを同定することに成功した。精巣卵のクラスターでは、vasa、dazlなどの生殖細胞マーカーに加えてzona pellucida sperm binding protein 4、H1foo などの卵特徴的な遺伝子が発現されていることを確認した。また精巣卵クラスターはガンマ線を照射していないtp53遺伝子欠損メダカの精巣、野生型メダカにおいても確認され、野生型メダカの精巣において恒常的に精巣卵が形成されていること、およびtp53遺伝子の欠損が精巣卵への異常分化を誘導しているのではないことが明らかとなった。さらに、tp53遺伝子欠損メダカの精巣、野生型メダカの双方においてガンマ線の照射が精原細胞から精巣卵への異常分化を促進していることが明らかとなった。 一方、予想に反して精巣卵および未分化な精原細胞におけるrev1 遺伝子の発現は低く、ガンマ線照射による精巣卵誘導におけるrev1 遺伝子の関与の可能性は低いことが明らかとなった。tp53、rev1 の両遺伝子は精原細胞の精巣卵への異常分化に寄与しているのではなく、恒常的に形成されている精巣卵が精巣内で排除される機構に関与していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京都大学放射線生物研究センターの低線量率長期照射装置を共同利用して、rev1 遺伝子欠損メダカの成魚に対する低線量(100 mGy)・低線量率(100 mGy/7 days)のガンマ線照射実験を実施した。しかし、非照射のコントロールを含む全個体が照射開始の翌日に死亡し、照射実験に失敗した。千葉県柏市より京都大学まで新幹線を利用してメダカを輸送するのであるが、過去にも野生型メダカ(Hd-rR系統)が照射開始翌日に全滅したことがあり、輸送のストレスが原因であった。そこで照射前日にメダカを移送し、一晩休ませた上で照射実験を開始することにより照射実験が可能となった。今回も同様にrev1 遺伝子欠損メダカを照射前日に移送したが全滅した。rev1 遺伝子は誘発突然変異は,放射線や紫外線,化学物質などよって突然変異が誘発される際に必要な損傷乗り越えDNA合成酵素をコードしていることから、rev1 遺伝子欠損メダカは輸送ストレスに特に脆弱である可能性が考えられた。 一方、コロナ禍が続いたために低線量・低線量率ガンマ線照射実験を当初の計画通りに実施することが困難であることが予想されたため、既存のデータを活用してメダカ精巣卵における rev1 遺伝子の発現を確認することを令和4年度に実施した。500 mGy のガンマ線を急性照射(100 mGy/1.6 seconds)した野生型メダカ(Hd-rR系統)およびtp53 遺伝子欠損メダカの精巣において実施されたシングルセルRNA-seq データを解析し、雄性生殖細胞として12 個のクラスターを同定し、さらに精巣卵として1個のクラスターを同定することに成功した。一方、予想に反して精巣卵におけるrev1 遺伝子の発現は低く、ガンマ線照射による精巣卵誘導におけるrev1 遺伝子の関与の可能性は低いことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではDNA修復システムにより野生型個体においては回避され潜在化している低線量(率)放射線のリスクを解明することを目的とし、DNA修復関連遺伝子であるtp53、rev1 遺伝子を欠損するメダカにおける精巣卵誘導のメカニズム解明を目指した。シングルセルトランスクリプトーム解析の結果、当初の予想に反してrev1 遺伝子の関与が放射線による精巣卵への異常分化誘導ではなく、誘導された精巣卵の維持にあることが明らかになり、rev1 遺伝子欠損メダカにおけるさらなる解析が精巣卵誘導の分子機構の解明に資するところは小さいことが明らかとなった。rev1 遺伝子欠損メダカに対する低線量率長期ガンマ線照射実験が技術的に困難であることも明らかになったため、低線量率長期ガンマ線照射実験は令和5年度に再実施はしない方針である。また、rev1 遺伝子欠損メダカを対象とするシングルセルRNA-seq解析も同様に実施しない方針である。一方、精巣卵誘導の分子機構の解明を進めるために、令和5年度ではシングルセルRNA-seq のデータ解析をさらに深化させる。 また、本研究の目的の一つである社会集団、生態系へのインパクトをより包括的に評価するため、rev1 遺伝子欠損メダカを対象としてガンマ線照射が精子ゲノムに与えるインパクトを解析する。具体的には令和5年度において500 mGy のガンマ線を急性照射(100 mGy/1.6 seconds)した野生型メダカ(Hd-rR系統)およびrev1 遺伝子欠損メダカの精巣よりゲノムDNAを抽出し、NGS解析して誘導される突然変異の増加を定量的に評価する。
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