研究課題/領域番号 |
21K12246
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63020:放射線影響関連
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
岡田 勝吾 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 助教 (40731732)
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研究分担者 |
平野 祥之 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (00423129)
楠本 多聞 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 計測・線量評価部, 主任研究員 (90825499)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 放射線シミュレーション / モンテカルロ法 / 超並列計算 / GPGPU / FLASH効果 / FLASH-RT / 酸素効果 |
研究開始時の研究の概要 |
近年放射線治療分野では、高線量率超短時間照射(FLASH)の実験研究が精力的に行われている。FLASHは、がん細胞への殺傷能力を維持し、正常細胞への放射線影響を顕著に低減する。実験研究から、正常細胞内で起きる酸素欠乏がFLASH効果の一因とする仮説が提唱されている。本研究では、FLASHにおける酸素の化学反応過程を定量化する数理モデルを構築する。細胞内部の放射線現象をモンテカルロ法でシミュレートして、照射荷電粒子の物理反応と活性酸素種等の化学反応を追跡し、細胞の放射線影響を予測する。FLASHの生物学的効果の定量的評価や、FLASH効果の原理解明等のためのシミュレーション基盤の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
昨年度にFLASH照射による水溶液内の放射線化学反応過程を追えるよう機能拡張したMPEXS-DNAで、研究分担者が行った陽子線FLASH照射の実験を模擬したシミュレーションを実施した。その実験とは、OHラジカルを捕獲して蛍光を呈するクマリン-3-カルボン酸(C3CA)が溶けた水溶液に陽子線を線量率を変えて照射し、7-ヒドロキシ-クマリン-3-カルボン酸(7OH-C3CA)の収率の線量率依存性を測定するものである。実験では線量率の増大により7OH-C3CAの収率が低下し10 Gy/s以降ほぼ一定となる結果を得たが、これをMPEXS-DNAシミュレーションでも再現した。但し、実験では収率低下率が60%程度であり、対してMPEXS-DNAは30%と両者に差がある。現状MPEXS-DNAに実装したC3CAに関連する反応速度定数等のパラメータが実現象に即しておらず今後の課題である。7OH-C3CAの収率低下の要因としては、FLASH照射により水溶液内の酸素濃度が極度に低下して7OH-C3CA生成に酸素が関わる経路が遮断されるためとされた。しかし、実験で各線量率での酸素消費量を見ると、7OH-C3CAの収率低下に見合うだけの酸素は消費されていなかった。この件もシミュレーションで再現できた。7OH-C3CAの収率低下の可能性のある別要因として、FLASH照射でOHラジカル同士の再結合が活性化し過酸化水素の生成が増えてOHラジカルが減少することが挙げられる。実際シミュレーションでは線量率の増大で過酸化水素の収率が増え、その量は7OH-C3CAの収率減少に十分見合う。この結果の検証のため、来年度には過酸化水素の収率の線量率依存性の実測値との比較を行う。 更に電子線のFLASH照射時の水和電子の収率の経時変化の実測データとの比較も行い、MPEXS-DNAは概ね実測結果を再現することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子線や陽子線によるFLASH照射実験をMPEXS-DNAで模擬したところ、シミュレーションで計算したOHラジカルや水和電子等の収率は実測結果を概ね再現できることを確認した。MPEXS-DNAをベースとしたFLASH照射シミュレーションモデルの開発は順調に進んでいると考える。これと並行して、MPEXS-DNAの化学過程の計算速度改善を行った。化学過程では近傍の分子種を探索して自身がどの分子種と拡散中に反応を起こすのかの判定を毎時間ステップ実施し、ここで最も時間を費やす。FLASH照射のシミュレーションでは扱う分子種の数が膨大になり計算時間が簡単に長大化する。そこで分子動力学法で利用される近接リスト法を参考にMPEXS-DNAの化学反応過程のコード改修を実施したところ、2倍弱の計算速度の向上を得られた。また、2022年秋にNVIDIAからAda Lovelaceアーキテクチャ採用のGeForce RTX 4090が発売されたので、昨年度購入したベンチマーク用の計算機のGPUを新世代のものへと換装した。GeForce RTX 4090はコア数が16,000以上、クロック周波数は2.5GHzに達し、GPUの換装だけで更に2倍の計算速度の向上が得られた。MPEXS-DNAは昨年度と比較して3-4倍も計算速度が上がり、FLASH照射シミュレーションの高速化に繋がった。
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今後の研究の推進方策 |
現状MPEXS-DNAはC3CAが溶けた水溶液に陽子線をFLASH照射したときの、7OH-C3CAの収率の線量率依存性の測定結果を概ね再現できる段階にある。しかし、MPEXS-DNAで計算した7OH-C3CAの収率低下率は測定値と差があることを確認した。この要因を調べるため、実験体系とシミュレーションのモデル体系との間の差異や、MPEXS-DNAに実装したC3CAに関連する化学反応の反応速度定数などのパラメータを今一度精査する。 7OH-C3CAの収率低下の機序を理解するための実験が研究分担者により実施される。過酸化水素の線量率依存性の実験データが提供され次第、シミュレーション結果との比較・検証を実施する。研究成果は学術論文の形でまとめていく。
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