研究課題/領域番号 |
21K12305
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64030:環境材料およびリサイクル技術関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
矢澤 健二郎 信州大学, 学術研究院繊維学系, 助教 (70726596)
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研究分担者 |
後藤 康夫 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (60262698)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | カイコ / 再生絹糸 / 溶液紡糸 / 重鎖 / 軽鎖 / 野蚕 / クモ / フィブロイン / シルク / H鎖 / イオン液体 / 乾湿式紡糸 / 屑繭 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、汚れや穴の存在のため廃棄対象となったカイコの繭や絹製の古着をタンパク質源として、溶液紡糸により天然絹糸を上回る強度を持つ再生絹糸を創製する。具体的には、カイコシルクフィブロインから分子量40万のH鎖を抽出し、H鎖成分を用いた紡糸を検討し、構造欠陥の少ない結晶を有する、天然シルクの強度を超える人工シルクを作成する。屑繭は製糸工程で廃棄対象となっており、通常の美品繭を使用する場合と比較すると、劇的なコストダウンにつながる。本研究で、高強度な再生絹糸を創製できれば、タンパク質性の構造材料として、タイヤや建材の補強材としての利用をはじめとした次世代繊維としての利用が期待できる。
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研究実績の概要 |
地球環境問題が深刻化する中、石油由来繊維の代替となり得る天然繊維に注目が集まっている。その中でも、クモやカイコをはじめ、ハチや水生昆虫が作り出すタンパク質性繊維であるシルクは、軽量でありながら、強度と柔軟性を併せ持つため、次世代繊維としての期待は大きい。しかし、天然のシルクと類似した構造および力学物性を有する人工シルクを作り出すことは、未だ困難である。この理由として、人工シルクを大量に作成する技術が未開発である点が挙げられる。そこで、本研究では、シルクを大量に作成する手法として溶液紡糸に着目し、繰糸工程から除外されることの多い屑繭を原料とした再生絹糸の作製に取り組んでいる。 家蚕の屑繭から高分子量成分の重鎖だけを選別し、低分子量成分である軽鎖は除外して再生絹糸を作成したところ、天然のシルクと同等の強度を有し、破断伸度と弾性率については天然絹糸の物性を超える再生絹糸を作り出すことが出来た。 さらに、家蚕由来の屑繭だけでなく、野蚕由来の屑繭を利用した再生絹糸の作製にも取り組んだ。野蚕シルクは低分子量成分を含まないため、再生絹糸は家蚕シルクに匹敵する強度と伸度を有することが分かった。 広角X線散乱を利用して、繊維の結晶構造を測定したところ、天然絹糸では繊維軸方向に分子鎖が配向していた一方で、再生絹糸では、繊維軸と直交する方向に一部の分子鎖が存在していることが明らかとなった。再生絹糸中の分子鎖を完全に繊維軸方向へ配向させることが今後の課題となる。 本研究結果は、未利用のタンパク質の有効活用につながる技術であり、シルクの構造材料としての利用に貢献できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繊維状のシルクを適切な試薬で溶液化した後に再び繊維化させる溶液紡糸は、繰糸工程で除外されることの多い屑繭や古くなった絹製の衣類を再利用する技術として注目されている。しかしながら、溶液紡糸を利用して作成した再生絹糸の物性は、多くの場合に、天然絹糸と比較して劣る。この理由として、シルクから糊成分であるセリシンタンパク質を除くための洗浄過程である精練の際にアルカリ性試薬を使用するが、そのアルカリ性試薬によってシルクフィブロインがアルカリ加水分解を受けて、低分子量化が起こり、再生絹糸の力学物性の低下につながる問題がある。再生絹糸を作成する際に、原料として用いるシルクが高分子量を維持していることは、高強度の再生絹糸を作成する上で、重要である。家蚕由来のシルクは高分子量成分であるH鎖と低分子量成分であるL鎖とP25から構成されていることが知られている。本研究では、過去の先行研究の手順を活用して、アルカリ性試薬を加えない熱湯での精練を実施した後、家蚕シルクからH鎖を選択的に単離し、そのH鎖を紡糸原液として再生絹糸を作成した。H鎖はイオン液体に可溶であり、溶液紡糸の際にシリンジから凝固浴へ注入し、延伸過程で延伸を加えると、再生絹糸の繊維軸方向への分子配向を向上させることが可能であり、力学物性の向上が期待できる。実際に、H鎖由来の再生絹糸は延伸後に、天然シルクと同等の強度を有した。さらに破断伸度とタフネスに関しては、天然絹糸を凌駕していることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
カイコシルクフィブロインのH鎖を利用して溶液紡糸を行うことで、天然と同程度の強度を有する再生絹糸を作成できた。広角X線散乱を利用して、再生絹糸の結晶構造を調べた結果、天然絹糸とは異なる点が観察された。具体的には、天然絹糸の場合には、シルク分子鎖が繊維軸方向に配向していたのに対し、再生絹糸の場合には、一部のシルク分子鎖が繊維軸とは直交する方向に存在していることが分かった。これは、再生絹糸の作製の際に、一度、繊維状シルクを溶液化するために、分子の階層構造が崩れるため、再度繊維化する際に、全ての分子が繊維軸方向に配向することが困難であることに起因すると考えられる。繊維軸と直交する方向に配向した分子鎖は、繊維の構造欠陥となり、力学物性の低下につながる。そこで、再生絹糸の分子配向をさらに向上させるために、今後は、沸点を超える温度に加熱した過熱水蒸気の雰囲気下で再生絹糸の延伸処理を行うことを検討している。過熱水蒸気は、分子運動が非常に大きいため、再生絹糸を構成する分子鎖内部に水分子が浸透し、水の可塑化効果によって、シルク分子鎖間に存在する水素結合が切断されると予想される。その結果、さらなる延伸が可能となり、シルク分子鎖の繊維軸方向への配向度を向上できることが期待される。天然シルクの強度を超える再生絹糸を作成することを目指す。
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