研究課題/領域番号 |
21K12327
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64040:自然共生システム関連
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
冨山 清升 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 教授 (30272107)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 都市生態学 / 陸産貝類 / 進化学 / 都市生態系 / 遺伝的分化 / 生態学 / 保全生物学 / 都市進化学 / 生物地理学 |
研究開始時の研究の概要 |
これまで日本で主流である生態学、および、それに基づく自然保護政策においては、外来種は徹底的に排除すべき対象であり、在来種から構成される生態系を回復させることが主要な目的とされてきた。しかしながら、日本の生態系に入り込んでしまった多くの外来種の排除の成功例は少なく、生態系に入り込んでしまった排除困難な外来種と共存する方策も模索すべき時期になっている。そこで、本研究では、『都市環境に入り込んだ陸上動物の外来種がどのような進化生態学的な役割をもたらしているのか科学的に解明すること。』を研究する。材料としては、季節性がなく、採集容易で、集団間の遺伝的交流に乏しい陸産貝類を用いる。
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研究実績の概要 |
これまでの成果は研究論文の形で数本投稿した。また、著作物の原稿も完成している。最終年度となる2023年度は本の刊行を目指したい。 鹿児島県は本土と26の有人島、 合計605もの離島が南北およそ600kmにわたって多くの島嶼を抱えており、 本土と南西諸島では属する気候帯も異なる。 その結果、多様な生態系が広がり、 多くの動植物が分布している。 その中でも陸産貝類は移動性が乏しく、 奄美大島をはじめとした多くの離島で様々な固有種が発見されている。 しかし離島を調査地とした研究に比べて、 鹿児島本土、特に都市部を対象とした研究が遅れている。 また、 都市が生物群集に与える影響に関する研究、 つまり都市生態系の研究は日本ではほとんどされていない。 本研究では、都市を島嶼のような閉鎖生態系と見立て、島嶼生態学の手法を適用した。 近年では鹿児島本土各地で以前は農地であった土地や生物多様性の高い地域の都市開発や高速道路の敷設が進んでいる。 都市や大きな道路の存在はたとえ地続きであっても、 河島嶼と同等の地理的隔離の効果を陸産貝類に与えることが予想される。 こうした現状から、 都市化はすでに現在の鹿児島における陸産貝類群集に何らかの影響を与えていることが考えられ、都市独自の遺伝的分化も予想される。 そこで、 本研究では、 鹿児島市北部、 鹿屋市南部、 奄美市北部から中央部の3つの地域で合計10地点を調査地とし、 本土と離島間での陸産貝類群集の比較、 本土内での比較、 そして同じ地域内での比較を行った。2年目となる2022年度は、初年度の成果を踏まえ、実際の野外調査を行い、結果を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の成果は、投稿論文に投稿した。 坂元遊杜・冨山清升 (2022) 鹿児島県奄美市北部から中央部、鹿児島市北部、および鹿屋市南部における都市化による陸産貝類相への影響。 Nature of Kagoshima 48: 313-331。 有村祐哉・冨山清升 (2022) 鹿児島市山林部おける陸産貝類の分布。Nature of Kagoshima 48: 345-357。 都市生態系の進化生態学的な調査はほとんど行われておらず、特に都市化と陸産貝類の関係性についての研究はおそらく本研究が初となる。鹿児島県における近年の都市開発は移動性に乏しい陸産貝類に地理的隔離のような影響を与えていると考えられる。陸産貝類の都市生態系における生態の状況、進化過程の状況に関して、調査研究を行った。まず、都市として、鹿児島県本土にいては鹿児島市街地を、離島部においては奄美市街地を調査場所として選定した。市街地の中で、遺伝子プールを保持する生息場所として島的に存在する都市公園や社寺林を選択し、市街地周縁の自然林環境と動物相を比較した。それぞれ開発度合いが異なる奄美市、鹿児島市、鹿屋市の3地域10地点で採集を行った。採集した陸産貝類は種同定を行い、その後各調査地点間で野村・シンプソン指数をもとにした類似度を求め、クラスター分析を用いて群平均法でデンドログラムを作成した。開発が進んだ地域では微小貝の割合が低下している。分析の結果、都市開発が進むほど同地域内での類似度が低下していることが分かった。従って、都市化は陸産貝類に移動を妨げる島嶼に似た環境を与えると考えられた。都市内における狭い範囲での隔離は容易にその地点の陸産貝類相の変化を引き起こしていると推定された。
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今後の研究の推進方策 |
【成果の公表】調査の成果の公表は、投稿論文の形態と著作物の形態で行う予定であり、原稿は既に完成している。 日本では、1990年代以降、自然保護の現場で、「里山」(Satoyama / semi-natural rural suburban area)という単語が急速に広まった。現在の日本では、里山を語らずして、自然保護が語れないような状況となっている。しかし、そのような日本の自然保護の現状を国際会議の場で紹介すると、驚愕の対象となる。「いわゆる都市生態学とは異なる概念。日本国外の熱低雨林や砂漠化地域、サンゴ礁地域の保全はどう考えているのか。」等々の疑問を呈される。研究年度は里山主義と都市生態系の保全の違いも考察していきたい。 固有種の陸産貝類の生息現況調査と固有種が都市環境にどのように適応し、定着しているのか生息現況を調査する。【背景】陸産貝類は、原生の自然環境下における生息種数よりも、都市周辺のような人為環境の強い地域の方が、数が多いという変わった性質が知られてきた。また、本来は原生林に生息しているはずの在来種が一部の都市環境にも進出していることから、在来種の遺伝的性質が変化し、都市環境に適応した結果、都市周辺の攪乱地に生息する在来種が生じている可能性も示唆されている。しかし、都市地域における生物分布の調査はどの生物群でも抜け落ちた調査分野である。【方法】南九州から北部南西諸島において、都市地域とその周辺の在来自然環境の保全された地域の間での陸産貝類相の正確な分布調査を行う。特に両地域間の緩衝地帯の生息現況調査にも力点を置く。
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