研究課題/領域番号 |
21K12390
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
|
研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
渡会 環 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (50584372)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
|
キーワード | 高齢者介護 / ブラジル / 介護士 / 再生産労働 / 社会格差 / 公衆衛生 / 家族史 / ジェンダー / 家族 / 高齢化 / ケアワーク |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、高齢化の進行に伴い、高齢の家族を介護するということがブラジルの家族の機能と成員間の関係に対してどのような変化をもたらしているのかを明らかにするものである。介護が独立したサービスとして提供されるようになった中で、高齢者を抱える家族が「介護」や「家族」、「高齢者」に対してどのような認識を持ち、それらは以前とは異なるのかを調べる。
|
研究実績の概要 |
高齢化の進行に伴うブラジルの家族の機能と成員間の関係の変容を明らかにするため、2023年度は先行研究をさらに読み進め、また各種統計の整理を引き続き行うとともに、高齢者を抱える家族また介護サービスを提供する者へのインタビュー調査を開始した。また、ブラジルの高齢化、医療および介護の歴史や現状を調査する研究者との意見交換を行った。インタビュー調査について、ブラジル国内では国内で最も住民の高齢化が進むサンパウロ州(サンパウロ市)やリオグランデドスル州(ポルトアレグレ市)、高齢者率が高くないアラゴアス州(マセイオー市)で行った。複数の都市で実施したことにより、高齢化の分布と進展の地域差、介護支援サービスの充実度の地域差が明らかにできた。なお、本研究では近年のブラジル出移民の現象を踏まえて国内に残した高齢の家族の世話や介護を移民がどう対応しようとしているのかについても調査しているが、調査地であるフランス・パリ近郊と、参加した国際学会の開催地であるポルトガル・リスボン近郊でもインタビューを行うことができた。ブラジル滞在中は、リオグランデドスル連邦大学、ジェトゥリオ・ヴァルガス財団、オズワルド・クルス財団に所属する研究者との意見交換を行い、大学による介護講座の開講の動き、ブラジル政府の統計にあらわれる高齢者を取り巻く生活の実態(独居率や年金を含めた年間収入額)や、公衆衛生の歴史と介護の関係などについて、議論することができた。ただし、これらの現地での調査・研究の成果の発信については、2023年度、論文あるいは研究会等での発表の形で行うことができなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた通り、2023年度は高齢者を抱える家族また介護サービスを提供する者へのインタビュー調査を開始し、それに並行してブラジル滞在中はブラジルの高齢化、医療や介護の歴史や現状を調査する研究者との意見交換を行った。現地に実際に足を運んでみると、それまで先行研究から把握していたブラジルの高齢者介護の状況と、現地でみたりきいたりしたことにはかなりの違いがあった。それは、ブラジルにおける高齢者介護を取り巻く環境がかなりめまぐるしく変化していることが理由である。このことにより、現在までの進捗状況は「やや遅れている」と評価した。この違いが小さくなるよう、2024年度は最新の研究成果を調べあげて整理する。なお、違いを強く感じたのは、「介護士」という職種は国に認められたもののその職種に求める能力や資格の制度化などを定める規制化がすすんでいないという状況は先行研究が示すとおりであったが、そのような中でも高齢者介護を専門とする者を育成する講座が民間団体や政府団体、さらには大学でも急増していたことである。また、インタビューでも講座を受講し高齢者介護に携わる女性は自身の「専門性」を強く語っていた。職業の規制化が進んでいないのは高齢者介護をブラジルでは家政婦が担ってきたということがあるが、「家政婦」と「介護士」の差異化が介護に携わる者、大学といった講座を提供する側でなされていた。しかし、やはり職業の規制化がなされていないことにより、本研究への協力者を得る際に、ポルトガル語で介護する者を意味するcuidadorという単語を用いたところ、協力を得られたのが医師や心理カウンセラーといった広義の意味の「高齢者の介護者」の方が狭義の「介護士」より多くなってしまった。ただし、医師や心理カウンセラーといった医療従事者が高齢者介護に関わることを再認識させられたのは本研究課題にとっては有益ではあった。
|
今後の研究の推進方策 |
上記で示したとおり、ブラジルでは高齢者介護のあり方をめぐって大きな転換期にある。こうした転換期の実態をまず、整理する必要がある。政府の統計の精査、また最新の研究成果を読むことで、高齢者介護の現状を整理する。このことを渡航前にしっかりと行った上で、夏季休暇中に現地で2回目のインタビュー調査を実施する。インタビュー調査では、2023年度の調査で相手方の都合によりキャンセルとなったサンパウロ州にある病院も含めて、さらなる介護従事者と家族に対しても行う。介護士の職業の規制化がすすんでいないことを考慮すると、本研究のインタビュー調査では「介護」をしていると自ら考える人は対象とすることとし、最初から対象者を絞らないようにする。また、インタビュー実施場所は、2023年度の調査で明らかになった地域差の問題をより分析できるよう、引き続き複数の都市で行う。なお、2024年度の調査ではあらたに、介護を学ぶ場や実践する場で語られる「高齢者介護」のあり方について調べる。介護講座の内容や講座修了生の就職状況を現地渡航前に調べる。ブラジルの高齢者を取り巻く環境には、ブラジル国内の経済的な地域間格差それによる高齢化率の地域差、職業をめぐる規制化の問題、高齢者介護に対する人々の意識の変化など、さまざまなことが交錯して影響を及ぼしており、本研究において調査する項目が膨大となってしまうが、それぞれについて論文や研究発表という形で2024年度中にまとめ、これにより、ブラジルの高齢者介護が抱える課題を整理し分析できるようにする。
|