研究課題/領域番号 |
21K12398
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 日本経済大学 |
研究代表者 |
長濱 和代 日本経済大学, 経営学部(福岡キャンパス), 教授 (40839239)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 持続的森林管理 / 住民参加 / エンパワーメント / 測定指標 / 森林統計 / 計量分析 / 自治組織 / 質的分析 / インド / ヒマラヤ / 質的研究 / 森林パンチャーヤト |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は持続可能な森林管理の測定指標の理論的枠組みを明確にした上で、森林の持続的利用と管理のための設計指針を実証的に検討することを目的とする。 研究方法は、(1)「エンパワーメント」測定の理論的背景と指標群の明示、(2)地域住民の参加とエンパワーメントの関係に関する個々の先行研究の資料・文献レビュー、(3)森林被覆率がL字型回復を遂げているインドの全国森林統計(FSI)、および森林被覆率が7割を超え、森林パンチャーヤト(住民による森林管理自治組織)が組織されているウッタラーカンド州の森林統計(UFD)のデータに基づき、同州で世帯住民を対象とした質的面談調査を実施する。
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研究実績の概要 |
2022年度は、コロナ禍で制約の多い状況下であったが、8月にインドへ渡航して、ウッタラーカンド州テーリーガルワール郡D村での森林利用と管理に関する構造的面談調査を実施した。2012年においても、同村で世帯調査(悉皆調査)を実施しており、10年ぶりの世帯調査により、森林管理や地域住民の生計について、当時との比較調査が遂行できた。 インドの山村では、2012年以降、10年余におよぶ森林パンチャーヤトにかかわる世帯調査と樹木調査にもとづくデータを蓄積しており、この成果については2022年度に研究成果公開促進費が採択いただいたことから、11月に『ヒマラヤの森はなぜ守られたのかーインド・ウッタラーカンド州における森林パンチャーヤトの資源管理』という題目で、九州大学出版会から書籍を刊行した。これにより本研究のさらなる「研究のアウトリーチ(発信)」が期待できる。 海外への研究発信においては、森林管理における住民参加については、参加の程度とレベル(段階)について、インドの森林パンチャーヤト(地域住民による森林管理自治組織)における量的および質的データから導いた新たな知見を、英語ジャーナルに投稿して、“Forest”(査読有)にて公開された。10月には国際森林学会(IUFRO)に参加して口頭発表を行った。英語による研究室紹介ウエブサイト作成して公開した。今後は、文献レビューにより収集した測定指標を元に、インド森林統計と村落調査データから多変量解析をすすめ、本研究のテーマに踏み込んだ研究発表を進める。 教育的貢献としては、研究室に所属している学生たちと国内の持続的な森林利用と管理を実践している地域を訪問して、面談調査とフィールドワークを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究概要に述べた計画に基づき、2022年度は8月にインド・ウッタラーカンド州で世帯住民を対象とした質的面談調査を実施して、自然文化史研究会の会報で報告をした。12月には質的研究を学ぶ会(日本環境教育学会)では研究内容をまとめ、発表をした。 同州で研究対象とした「森林パンチャーヤト」は、地域住民で組織する森林管理組織であり、コミュニティ林の管理組織として、国内の財産区有林や学校林にも着目して調査をはじめている。この成果について、九州森林学会、村落環境研究会、および環境探究学研究会で、口頭発表を行った。研究発表後の議論では、インド・ウッタラーカンド州で1930年代に出現したパンチャーヤト林の管理と、日本の入会林管理は類似点が多いことがわかり、西日本における入会林研究において新たな示唆を提示できると考えられる。 書籍の執筆については、『ヒマラヤの森はなぜ守られたのか』(再掲)の他に、8月に編著として『学校教育の未来を切り拓くー探究学習のすべて』を環境探究学研究会から刊行した。本文では「PC×Rサイクルに」よる指導原理と評価法を確立するとともに、会員から研究実践を募り、編者として執筆原稿の査読をした。編者として長濱は、第8章15節で「フィールドワークを探究する」を書き下ろし、会員による座談会「探究学習の未来」を司会としてまとめた。12月には『DX時代の人づくりと学び』が刊行され、共著者として第3章を担当し、探究学習についての実践例を紹介した。
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今後の研究の推進方策 |
森林の持続的利用と管理については、インドの参加型森林管理の事例として、森林パンチャーヤトという住民組織と、利用されているパンチャーヤト林に着目して、10年余りの研究を蓄積してきた。収集した測定指標を元に、インド森林統計と村落調査データから計量分析をすすめ、最終年度では、本研究のテーマに踏み込んだ研究発表と発信を推進する。必要があれば、年度内にインドへ渡航してデータ収集を行う。 2012年と2022年のウッタラーカンド州テーリーガルワールD村での構造的面談調査の結果と比較調査の分析に基づき、6月にオーストラリアでの国際森林学会で、持続的な森林管理と利用の視点から、森林の持続的利用と管理のための設計指針について提案を行う。東京大学大学院農学生命科学研究科では、農学共同研究員として櫻井武司先生らと共同研究を進めていることから、国際学会での議論を受けて英語論文を執筆して、国際ジャーナルへ投稿する。 日本国内の森林にも目を向けている。東京大学大学院博士課程に在籍時から国内の林地を訪れ、現地の方から話を伺い、奈良県吉野郡川上村と岩手県上閉伊郡大槌町での事例と研究実践については、学会で報告をしてきた。2019年1月から2021年6月まで、農林水産省で林野庁の林政審議会委員に着任していたことから、森林政策とその課題について議論を重ね、森林の持続的利用と管理について考えを深めてきた。この数年間は、長濱研究室や環境探究学研究会の会員らと九州の林地を訪問して、森林の持続的利用と管理のための条件についてまとめ、発表を行っている。これらの内容について、ジュニア世代にも理解と行動を促せるように書き下ろし、『木が泣いているー日本の森でおこっていること』として、2023年6月に岩波書店から刊行する予定である。日本の森林・林業における課題解決に向けても示唆を与えられるように、本研究課題に全力で取り組む。
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