研究課題/領域番号 |
21K12421
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
能勢 美紀 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 学術情報センター図書館情報課, 研究員 (70866798)
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研究分担者 |
寺本 めぐ美 津田塾大学, 国際関係研究所, 研究員 (40788981)
熊倉 潤 法政大学, 法学部, 教授 (60826105)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | クルド / ウイグル / 出版物 / 民族意識 / ナショナリズム / 資料保存 / ナショナル・ライブラリー / 所蔵機関調査 / 言説分析 / 文献調査 / 先行研究レビュー / 国なき民 / 出版活動 / 民族主義 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、クルド人の出版活動と民族主義運動の相互関係を、ウイグル人のそれと比較しつつ明らかにする。出版物と民族主義は密接な関係にあるが、クルド人には出版物を収集・保護するナショナル・ライブラリーがないため、彼らの出版物は滅失の危機にあり、出版活動の全体像が見えない。これらの出版物を網羅的に収集し、目録化してクルド人の出版活動の全容を明らかにした上で、出版物が民族意識と民族主義運動に与えた影響を分析する。クルド人と同じ「国なき民」であるウイグル人についても出版活動と民族意識への影響を調査し、クルド人のそれと比較することで、両者の共通性と差異、それをもたらした要因を明らかにする。
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研究実績の概要 |
2023年度は欧州を中心とするクルド関係機関への訪問調査を主に行った。 具体的には、イギリスのエクセター大学図書館、トルコのイスマイル・ベシクチ・ワクフ、スウェーデンのクルド図書館およびクルド協会、ドイツの欧州クルド研究センター等を訪問した。中でも、エクセター大学は、イラクPUKの設立メンバーの一人であるオマル・シェイフモスが寄贈した資料群を保存しており、現在、イラク・クルド自治区のスレイマニエ大学図書館とともに、クルド関係資料の保存・修復プロジェクトを行っており、非常に貴重で膨大な資料を所蔵している。エクセター大学での資料保存の状況や、所蔵資料の特徴、そして何よりもイラク・クルド自治区との協力関係についての情報を得ることができ、ライブラリアンやアーキビストとの関係を構築することができた。 そのほかの機関についても、例えばトルコのイスマイル・ベシクチ・ワクフでは、トルコで刊行され、すぐに発禁になったためにトルコの国立図書館には所蔵がない1990年代の新聞類が非常に重要であること、同様に、ドイツの欧州クルド研究センターでは、すでに解散してしまったクルド系組織の機関誌やポスター等が収集・保存されており、それらはおそらく世界で唯一の所蔵として重要であることなどが各機関を訪問調査することで明らかになった。 これらの事柄から明らかなのは、ナショナル・ライブラリーを持たないクルド人の資料は、相当散逸しており、かつホームランドであるトルコをはじめとする中東各国で保存されていないという脆弱性である。現在、こうした各国での所蔵状況について、点数や主題等をデータ化する作業をすすめており、出版と民族意識の関係性が徐々に明らかになってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
欧州およびトルコの主要なクルド関係機関の訪問調査を終え、資料の収集も順調である。また、調査および収集したクルド関係出版物の特徴についても、分析のためのデータ化も進んでいる。特に、トルコ国立図書館のOPACデータを利用した分析からは、1990年代に相当数刊行されたはずのクルド語資料が全く所蔵および保存されていないことが明らかになった。ほかの機関についても順次分析を進めている。 また、併せて収集した資料の目録化作業と解題の作成も進めており、これらを複合的に利用・分析することで、当該研究の主題である出版物と民族意識との関係について最終年度に研究をまとめる土台ができている。特に、1970年代に出版された欧州のクルド人移民第1世代に向けた出版物における言説と、2000年代以降にクルド人移民第2世代、第3世代に向けて書かれた出版物の言説とを比較し、その影響を検討する。1970年代の出版物については代表者の能勢美紀が、2000年代の出版物については分担者寺本めぐ美が分析を進めており、出版物とクルド人の民族意識との相互関係について明らかになりつつある。 比較対象であるウイグルについても、分担者の熊倉潤が台湾・台北市にある国家図書館および中央研究院近代史研究所において、1940年代から50年代に台湾に逃れたウイグル人に関する資料を収集した。加えて、本科研の成果の一部である『新疆ウイグル自治区:中国共産党支配の70年』(中公新書、2022年)の中国語版(台北:八旗出版、2023年2月)に引き続き、トルコ語版が2023年9月にトルコ・アンカラのノベル出版社から刊行された。これに伴い、熊倉は台湾、トルコで講演活動を行い、現地のウイグル・コミュニティとの交流を進めている。 研究の進捗と成果については研究会を開催することで、共有できている。
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今後の研究の推進方策 |
収集した資料の目録と解題の作成を終わらせ、各年代の出版地、主題等の分析を行う。特に各国における出版点数と保存状況の調査および比較と、その土地での民族意識や民族主義運動の様相との関連性を明らかにしていきたいと考えている。 特にクルド関係資料についてはこれまで網羅的・包括的な目録が作られておらず、各国のクルド関係機関の紹介と蔵書の特徴、そして収集した資料の目録を公開することは大きな意義がある。これにより、当該科研費課題研究の進展のみならず、広くクルド研究およびウイグルを含む「国なき民」の研究に裨益することを目指す。
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