研究課題/領域番号 |
21K12435
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
吉田 量彦 東京国際大学, 商学部, 教授 (30614747)
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研究分担者 |
田村 愛理 東京国際大学, 商学部, 名誉教授 (50166584)
川名 隆史 東京国際大学, 経済学部, 教授 (60169737)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ユダヤ人 / マイノリティ / アイデンティティ / 移民 / 越境的ネットワーク / 共生 / 多元性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、ドイツ、東欧、中東のユダヤ教徒コミュニティに観察焦点をおきながらも、それぞれの集団が「自らが生きる場」をどのように選択し、選択した受け入れ社会であるキリスト教徒やイスラーム教徒との社会空間を、いかにして各種の連携や繋ぎ換えを含めたネットワーク利用により保ったのかという、各地域のユダヤ教徒の集団内/外間の関係に注目する。
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研究実績の概要 |
開始2年目となる2022年度も、新型コロナウィルス感染症の数次にわたる感染拡大を受け、研究活動は大きく制約され続けた。ことに長期休暇中に予定されていた各研究者の海外調査は、当該時点での首都圏および周辺地域の感染状況に鑑み、今年度も中止を余儀なくされた。 そうした制約の下、各研究者は国内にとどまり、既に入手・調達済みの研究資料および現況下でアクセス可能な研究資料を駆使しつつ、それぞれの研究の遂行に努めた。また感染状況の比較的落ち着いた時期を見計らって研究会を開催し、お互いの進捗状況の確認及び情報交換に努めた。以下、3名それぞれの当該年度内の研究実績について報告する。 吉田は、かつてデンマーク領に属する独立した交易都市であったアルトナ(現ハンブルク・アルトナ地区)の成立・発展の経緯について研究会で報告し、後に『東京国際大学論叢』に論文を発表した。また2022年2月刊行の自著『スピノザ―人間の自由の哲学』に関連して数件の原稿および学会発表の依頼があり、これに対応した。 田村は、ジェルバ島のイバード派ネットワークの文献研究を進め、彼らがユダヤ教徒と相似形の国際的ネットワークを有することに注目し、双方の複合的アイデンティティ構造とマイノリティ集団の生き残り戦略との関係に注目した。 川名は、ポーランド・ユダヤ人の社会主義運動の場におけるアイデンティティの変遷を対象とし、「ユダヤ人ブンド」を軸に研究を進めて、その成果を『東京国際大学論叢』に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」でも述べた通り、2022年度も新型コロナウィルスの数次におよぶ感染拡大によって海外調査が実質不可能となったため、各研究者は国内にとどまり、各自の研究の進展に努めることを余儀なくされた。ただしリモート会議にほぼ全面的に依存せざるをえなかった前年度と異なり、対面での研究会が無理なく開催できる程度まで状況は改善された。この結果、特に年度の後半では外部の研究者を積極的に研究会に招聘し、前年度よりも活発かつ啓発的な意見交換を行うことが可能となった。 吉田は、コロナ前に数回にわたり行った、ハンブルク・アルトナ地区のユダヤ人墓地に関する調査結果を統合する作業に取りかかっている。できれば夏期休暇中の再調査によって内容をアップデイトさせた上で、ユダヤ人のアイデンティティ形成における墓地の役割について、新たな論文を執筆する予定である。 田村は、ジェルバ島のイバード派とユダヤ教徒との民間信仰における相互浸透性を指摘し、さらに両コミュニティの越境的ネットワークや共生的経済活動などについて情報収集を進めてきたが、今年度も現地調査が不可能であるため研究遂行に制約を受けた。しかし、両コミュニティの比較研究を進め、マイノリティ集団の越境性を支える複合的アイデンティティ構造に研究を進めた。 川名は、ポーランド・ユダヤ人のアイデンティティの変遷の過程を追う方針を中心に据え、18世紀末のユダヤ神秘主義、19世紀の改革派の研究に続いて、「ユダヤ人ブンド」を対象にして社会主義運動史の中でのユダヤ・アイデンティティの実現の過程を追った。研究は相対的には順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
吉田は、夏期休暇中に2019年8月以来となる現地調査を計画している。具体的には、ハンブルクの国立図書館およびアルトナ博物館で地方史関連の未電子化・非電子化文献の収集に努めるとともに、時間の許す限りでハンブルク市内のユダヤ人墓地を再訪し、各墓地の現状および保全活動の進捗状況を確認したい。また、ユダヤ思想関連の海外・国内研究者を研究会に招聘し、意見交換に努めることを企画している。 田村は、2023年度5月にチュニジア、ジェルバ島において4年ぶりとなる現地調査を行う予定で、ジェルバ島ユダヤ教徒の大巡礼祭の調査およびユダヤコミュニティとイバード派コミュニティでのインタヴューを実施する。また、従来の知見を国内マイノリティ集団とも連携させ、マイノリティ研究における越境的複合アイデンティティの解明に研究を進める。 川名は、ポーランド・ユダヤ人のユダヤ・アイデンティティの変遷の研究を継続させる。ロシア帝国領内のユダヤ人の革命運動におけるユダヤ・アイデンティティの考察を拡大し、社会主義シオニズムの潮流の思想を考察対象とする。 研究課題の性質上、本研究を進めるにあたっては、各種文献の収集・調査と並んで、海外での現地調査を行うことが欠かせない。また、ユダヤ人およびユダヤ人社会という大きな共通項の下にそれぞれ異なる地域を調査対象としている関係上、共同研究者3名が頻繁に研究会を開催し、時には外部の研究者も交えつつ、各自の進捗状況の確認および有益な情報の交換を通じて相互啓発に努める必要がある。とはいえこうした研究環境をどの程度確保しうるかは、言うまでもなく、新型コロナウィルス感染症の今後の推移に大きく左右されるだろう。その都度の感染状況に柔軟かつ慎重に対応しつつ、引き続き本研究に従事していく所存である。
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