研究課題/領域番号 |
21K12447
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80020:観光学関連
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研究機関 | 放送大学 (2022-2023) 北海道大学 (2021) |
研究代表者 |
山田 義裕 放送大学, 北海道学習センター, 特任教授 (40200761)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 平和観光 / モビリティ / 拡張現実 / 監視社会 / 偶有性 / ピースツーリズム |
研究開始時の研究の概要 |
この研究は、インターネットの進化が私たちの社会的行動にどのような影響を及ぼすのかについて自由および権力の観点から考察することにより、新たなタイプの権力の出現が私たち人間が本来持っている「偶有性の自由」(偶然の存在であることの自由)を抑圧する可能性が高いということ、そしてその抑圧から逃れる道を探る方策として平和観光研究という知的営み、すなわち観光研究と平和研究の融合が効果的であること実証的に明らかにすることを目指している。
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研究実績の概要 |
今年度の本研究の実績の概要について、文献調査等に基づく理論研究の側面とフィールドワーク・研究交流を通じての資料収集およびその分析などの経験的研究の側面の二つに分けて述べる。最後に、研究成果の公開などの社会還元の実績について触れる。 文献調査に基づく研究については、現在進行中の二つの紛争に国際社会が有効な解決策を見出せない状況を踏まえ、本研究でもあらためて「平和」概念を根本から考察する必要性を痛感した。この目的のために昨年10月以降続いているイスラエルによるガザへの攻撃に焦点を当て、ガザの住民たちの日常が根こそぎ破壊されている状況について、1980年にイヴァン・イリイチが来日した際に展開した「根源的平和」論を手掛かりに考察を試みた。イリイチが言うところの「根源的平和」とは、民衆の平和(people’s peace)のことである。つまり、地域に生きる人の生き方そのものであり、土地に根ざした自立共生の暮らしが保証さていることである。この根源的意味の平和が近代化の中で抑圧され踏みにじられていることに警鐘を鳴らすため、イリイチは民衆の平和に「パックス・エコノミカ」という平和概念を対置させ、これにより民衆の平和が抑圧される構造を厳しく糾弾している。パレスチナ・イスラエル紛争をガザ住民の「民衆の平和」という観点から捉え直すにはイリイチの平和論をどのように洗練させるべきか、という問題を設定して考察を続けている。 フィールドワークについては、今年度は本務多忙により時間をとれず、殆ど実施することができなかったが、パレスチナの観光と平和に関するシンポジウムに参加し、広島大学平和センターの研究者等と有意義な意見交換を行うことができた。 研究成果の社会への貢献に関しては、昨年度に引き続き、現在所属している放送大学の学生や同窓生、あるいは地域住民への講演会を通じて本研究を社会へと還元するようつとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況についても、理論研究とフィールドワーク・研究交流に分けて報告する。文献調査を踏まえた理論研究については、今年度は二つのテーマを立てて実施した。一つは、研究実績の概要で述べたように、イバン・イリイチの平和論に依拠しながら平和の根源的意味を探る研究である。もう一つは、新型コロナウイルス感染症対策として提案された「新しい生活様式(new normal)」に焦点を当て、本研究のキーワードの一つである「偶有性(contingency)」を踏まえて、この新たな生活様式が私たちのコミュニケーションや自己アイデンティティのあり方にどのような影響を及ぼすかに関する考察である。前者については、その成果を帯広市の市民大学講座と連携した公開講演会で発表し(演題:「観光研究か「平和」を考える---ピースツーリズム研究の試み」)、後者については放送大学公開講演会として「ポストコロナ時代における「他者との出会い」---モビリティーズ研究の観点から」と題して講演を行った。 一方、フィールドワークは殆ど実施できず、そのため調査面ではやや遅れている状況である。研究計画を一年延長したが、当初予定していた韓国の済州島オルレの調査が本務や感染症の再拡大により難しい可能性もあり、その場合は国内(九州や東北)のオルレの調査へと切り替える予定である。研究交流については、北海道大学メディア・ツーリズムセンター(平和と観光プロジェクト)が主催したシンポジウム「観光を通してみるパレスチナの過去・現在・未来」(2024年2月2日、北海道大学メディア・コミュニケーション研究院メディア棟105室)に参加し、広島大学平和研究センターの研究者等との意見交換・研究交流を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本務多忙等の理由により、フィールドワークが思うように実施できず、出張に係る旅費及び関連経費が使用できなかった。次年度においては、韓国の済州島オルレの調査を行う予定であるが、本務の状況や感染症の再拡大等で難しい場合は、国内、具体的には九州各地や宮城県で実施されているオルレの調査へと切り替える。理論研究については、ピースツーリズム研究を(1)拡張現実化する監視社会における権力と自由の問題(2)観光と戦跡の関係に基づく戦争の記憶の問題(3)平和の根源的意味に関する問題、この3点を中心に考察する予定である。 また、本研究は社会のアクチュアルな問題(感染症や国際情勢等)と密接に関わっており、専門研究の場での発表だけでなく、引き続き公開講演等を活用して一般の人たちへ向けて情報発信を行うことで社会還元により力を入れる予定である。
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