研究課題/領域番号 |
21K12463
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80020:観光学関連
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
高 媛 駒澤大学, グローバル・メディア・スタディーズ学部, 教授 (20453566)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 満洲 / 観光 / ツーリズム / 帝国 / 戦争 / 植民地 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、戦前における満洲をめぐるツーリズムの歴史を、観光ガイドブックや新聞雑誌記事、旅行記および県人会会報などの資料を手がかりに、日本人旅行者側と旅行を受け入れる側としての在満日本人社会との連動性を通して描き出すものである。日本人旅行者と在満日本人社会を結ぶ様々な「帝国の同郷者ネットワーク」を解明することにより、帝国意識の形成回路や植民地経験の構築過程を、ツーリズムという営みを通してより重層的かつ立体的に把握することを目標とする。最終的には、観光と植民という満洲における日本帝国の二大実践の相互性を浮き彫りにし、今日までなお日中間に横たわっている満洲認識の齟齬を解きほぐすための糸口を提供する。
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研究実績の概要 |
2022年度は、国会図書館や東洋文庫といった東京都内の図書館などで資料調査を行いつつ、日本人の満洲旅行の「受容基盤」ともいえる、在満日本人県人会や同窓会(旧制中学校、旧制高等学校、旧制大学等)に焦点を当てながら、日本人旅行者と在満日本人社会との間を結ぶさまざまな「帝国の同郷者ネットワーク」の実態と意義について解明を進めた。 具体的には、まず、昨年に引き続き、在満日本人県人会や同窓会に関する一次資料の収集・整理を行いながら、各種在満日本人県人会や同窓会の規模と活動内容を解明しつつ、満洲旅行における在満日本人社会の果たした役割、および満洲旅行が在満日本人社会に与えた影響などについて分析を行った。 次に、日本人旅行者の旅行記と、在満日本人県人会や同窓会の語りの読み合わせを通じて、両者のまなざしの相互作用や、現地中国人社会との接触過程における両者のまなざしの共通点と相違点について考察を行った。 最後に、満洲旅行という営みを通して、日本人旅行者と在満日本人社会との間にどのような複雑な関係性が構築されていたかを検証し、その関係性が内地と外地という日本帝国の内と外の二つの社会に連携と亀裂という、相反する二つの作用をもたらしていたことを明らかにした。 上記と並行して、日本植民地研究会2022年度秋季研究会の主催による、2022年2月に刊行された共著『帝国日本の観光――政策・鉄道・外地』(日本経済評論社)の書評会にて、分担執筆した章「戦前における満鉄の観光誘致」について口頭発表を行った。口頭発表における主な内容は、南満洲鉄道株式会社(以下「満鉄」)が日本内地に設置した鮮満案内所のメディア戦略をはじめ、満鉄が行った学生向けの多様な優遇策、および各種中等学校長会議の誘致活動などを通して、在満観光機関の果たした役割について考察したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度と同様、2022年度は新型コロナウイルスの影響で海外での資料調査はできなかったものの、古書店での購入をはじめ、国会図書館や東洋文庫での閲覧調査、日本国内の研究機関の遠隔複写サービス、中国大陸や台湾、アメリカの研究機関が公開している戦前のデータベースなどを活用し、在満日本人県人会と同窓会に関する資料を可能な限り収集することができた。 これらの資料を手がかりに、満洲旅行の実施過程のなかで、満鉄やジャパン・ツーリスト・ビューロー(JTB)大連支部のような在満観光業者だけでなく、在満日本人県人会や同窓会といった「帝国の同郷者ネットワーク」が、日本人旅行者の送迎、案内を引き受けたり、夕食会のもてなし等を行ったりするなど、極めて重要な役割を果たしていたことを確認できた。 また、在満日本人県人会や同窓会は、日本人旅行者に向けて、満洲事情の紹介や就職の斡旋なども積極的に行っていた。すなわち、在満日本人県人会や同窓会は、満洲旅行中の日本人旅行者の身辺の世話だけにとどまらず、満洲認識の側面においても、日本人旅行者に多大な影響を与えていたことが、日本人旅行者が書き残した記録から読み取ることができた。同郷や同窓といった親密な存在であるだけに、在満日本人の語りはガイドブックの記述や日本人ガイドの話よりも、日本人旅行者に大きな影響力を持っていたといえる。満洲旅行を通して、日本帝国の内地と外地の関係性が維持され強化されていることが看取できる。 一方、日本人旅行者は、在満日本人による現地中国人との接し方を目の当たりにし、その威張っている姿について違和感を覚えたり、批判的な視線を向けたりすることも旅行記から散見された。つまり、日本人旅行者と在満日本人とのまなざしの相互作用は、複雑な様相を帯びていたのである。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、まず、引き続き在満日本人県人会や同窓会の実態の解明を進めながら、日本人旅行者と在満日本人社会との間を結ぶさまざまな「帝国の同郷者ネットワーク」について、分析をより精緻化させていく。次に、観光史と植民地史研究の蓄積をふまえつつ、日本人旅行者と在満日本人社会の相互作用を検証するとともに、満洲ツーリズムがいかに帝国意識と植民地経験の形成に寄与していたかを明らかにする。最終的には、観光と植民という、満洲における日本帝国の二大実践の相互性を浮き彫りにすることを目指す。 具体的な推進方策として、第一には、満洲認識における日本人旅行者と在満日本人のまなざしの相互作用のダイナミズムを描き出す。第二には、同時期の台湾、朝鮮半島への植民地観光における現地日本人県人会および同窓会の活動との比較をも視野に入れつつ、日本人の帝国意識と植民地経験の重層性をより立体的に把握する。第三には、帝国日本とそれを成立せしめていた近代性の特徴を、満洲ツーリズムと在満日本人社会との連動という切り口から明らかにしていく。 さらに、上記の一連の作業と並行して、2023年度も引き続き、国立歴史民俗博物館の主催による「近代東アジアにおけるエゴ・ドキュメントの学際的・国際的研究」の共同研究員に委嘱されることになっている。6月に同共同研究会にて、戦前に書かれた中国人の満洲旅行記について、口頭発表と意見交換を行う予定である。同発表では、日中社会が接触する満洲ツーリズムの場において、日本人旅行者のまなざしとの比較を視野に入れながら、中国人旅行者の特徴を明らかにするとともに、日本人旅行者のまなざしとの類似点と矛盾点を考察する。また、同共同研究会で知り合った他分野の研究者との意見交換を通して、さらに研究を深めていきたい。
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