研究課題/領域番号 |
21K12525
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
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研究機関 | 京都医療科学大学 |
研究代表者 |
佐藤 敏幸 京都医療科学大学, 医療科学部, 教授 (70395218)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 放射線検出器 / 有機無機半導体 / ペロブスカイト半導体 / 結晶成長 / 晶析 / 電荷注入阻止層 |
研究開始時の研究の概要 |
ペロブスカイト半導体は、光に対する感度が高く、液体のペロブスカイト材料を基板に塗布し加熱することで簡便に成膜できることから、高効率の太陽電池を目指した研究開発が近年盛んに行われている。ペロブスカイト半導体には鉛やヨウ素といった放射線に対して感度を持つ元素が含まれることに着目し、ペロブスカイト半導体放射線検出器の開発を行う。本研究では放射線検出器実現の課題となる、ペロブスカイト半導体層の厚膜化と暗電流の低減に取り組み、放射線検出特性の検証を行う。
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研究実績の概要 |
X線画像検出器の広視野、高感度、高空間分解能のために、ペロブスカイト半導体を用いた放射線検出器の開発を行っている。令和3年度は放射線検出器として動作させるために必要となる半導体層の厚膜化と、暗電流の低減化のための電荷注入阻止層の成膜に取り組んだ。令和4年度も引き続き厚膜化と暗電流低減に取り組んだ。また、放射線検出器の評価のための測定環境を整備した。 【半導体膜の厚膜化】ペロブスカイト膜作製の手法として、ペロブスカイト溶液を基板上に滴下し、晶析によってペロブスカイト膜の厚膜化を図った。NMPとGVLの混合溶媒を使用することで、200μm前後の膜厚において均一な多結晶膜が得られた。膜質をX線回折、SEMなどで評価した結果、基板側と膜表面側の結晶粒の形状が異なることがわかり、結晶粒の均一化に取り組んだ。新たな成膜方式としてペロブスカイト溶液を微結晶が析出したコロイド溶液とし、これを基板に滴下焼成することで、膜厚500μmの均一な多結晶膜を得ることができた。また、多結晶粒界に間隙が見られたため、コロイド溶液滴下後に追加のペロブスカイト溶液を滴下することで膜の緻密化を図った。 【暗電流の低減】作製した多結晶膜は成膜ごとに暗電流にばらつきが見られたため、ばらつきの低減に取り組んだ。追加溶液の組成と濃度、滴下量を調整することで暗電流のばらつきが低減した。さらにアニリンを追加滴下することで暗電流自体を大きく低減することができた。 【評価系の整備】作製した多結晶膜のX線検出特性を評価するため、多結晶膜を組み込む測定用筐体を作製した。また、多結晶膜からのX線照射による電流を測定する評価系を立ち上げた。電離箱によるX線発生器の線量測定を行い、作製した膜のX線特性評価を予備的に行った。線量と出力電流が比例することや、X線照射による時間応答を確認し、X線検出特性評価が可能なことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の主たる研究目標は厚膜化と暗電流の低減である。厚膜化の目標を100μmに定めているが、放射線検出器としてはさらなる厚膜化が好ましい。そのため、厚膜化に対応できる成膜手法となるよう、成膜手法の改良を行った。また、ペロブスカイト膜自体の暗電流のばらつきの低減化に取り組んだ。さらにX線特性を評価するための測定環境の整備を行った。 【厚膜化】実績の概要で述べたように昨年報告した溶液組成では、厚膜化のために溶液滴下量を増やして成膜すると基板界面から膜表面に向かって膜質が変化することがわかった。結晶化が溶液表面から進み、基板との界面に未反応の物質が残ることが原因と考え、厚膜化に対応できる成膜手法を探査した。GVL溶媒による溶液を90℃に加熱することで微結晶が溶液中に析出する。この微結晶が析出したコロイド溶液を滴下加熱することで均一な多結晶膜を得ることができた。この膜は粒界に間隙が多いため、膜の緻密化のためコロイド溶液を滴下加熱中にNMPとGVLの混合溶媒によるペロブスカイト溶液を追加滴下し成膜を行った。その結果、結晶粒界の間隙を埋め緻密な膜を形成することができた。現状500μm程度の膜厚まで成膜可能なことを確認している。 【暗電流の低減】上記成膜においても暗電流のばらつきがあるため、ばらつきの低減化に取り組んだ。追加滴下する溶液の濃度と滴下量を制御することでばらつきが低減した。またコロイド溶液滴下後にアニリンを追加滴下することで暗電流が大きく低減した。 【測定環境の整備】ペロブスカイト膜のX線特性を評価するため、測定用筐体を作製した。また、特性評価指標として用いられているX線感度(入射線量と検出器内部で発生した電荷量の比。単位 C/(Gycm2))を算出するための測定系を整備した。予備的な測定を行い、感度0.745μC/(Gycm2)を得、感度測定ができることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は昨年度に引き続き、ペロブスカイト膜の厚膜化に取り組むと共に、電荷注入阻止層による暗電流低減効果の確認および、X線検出特性評価を行う。 【厚膜化】昨年度はコロイド溶液を使用することで500μm前後のペロブスカイト膜の成膜を実現した。今年度は膜の安定的な暗電流低減のために、アニリン導入手法の最適化(アニリンの量や、アニリン自体を溶液に混合するなど)および、他のドーパントの検討を行う。 【電荷注入阻止層による暗電流低減効果の確認】ペロブスカイト膜の暗電流のばらつきとアニリン添加による暗電流の低減が図られたため、今年度は厚膜化したペロブスカイト膜上に、電荷阻止層を成膜し電流電圧特性を測定する。電荷阻止層としては、Sb2S3膜を使用するが、併せてSb2S3膜以外の半導体層を評価する。また、ペロブスカイト太陽電池で使用されるTiOx膜、有機n形材料、有機p形材料も併せて評価し、電荷阻止層の挿入位置や組み合わせを変え、評価を行う。暗電流低減効果とともに、耐圧の向上効果があるかも合わせて見極める。 【X線検出特性評価】電荷注阻止層によるX線検出特性の違いを評価する。正しく感度測定を行うためには極力電極からの電荷の注入を抑え、発生電荷量を測定することが必要である。電荷注入阻止層ごとに印加電圧を変え、暗電流と信号電流を評価し、最適な検出器構造を決定する。また、電荷阻止層ごとの時間応答も併せて評価する。上記に述べたX線による発生電流評価の他、スペクトル測定にも取り組む。これらの測定とともにCdTe検出器を同一条件で評価することで、ペロブスカイト検出器の能力の見極めを行う。
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