研究課題/領域番号 |
21K12687
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90120:生体材料学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小林 慎吾 九州大学, 先導物質化学研究所, 特任准教授 (70625110)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 精密重合 / 定序性高分子 / regio選択的重合 / Grubbs触媒 / 開環メタセシス重合 / 血液適合性材料 / 生体親和性材料 / バイオマテリアル / 生体適合性高分子 / 精密高分子合成 / 高分子構造・物性 |
研究開始時の研究の概要 |
生体はタンパク質、核酸、多糖類などで構成された高分子複合体であり、例えば酵素が発現する極めて高い機能は、厳密に制御されたアミノ酸配列に基づく高次構造の発現と、分子内/分子間の特異的/非特異的相互作用の制御によって達成されている。一方、合成高分子では、モノマー配列の制御にかかる合成上の困難さに起因して、その配列の影響にまで注意を払った研究が行われることは稀である。 そこで本研究では、側鎖配列が制御されたモデル高分子の合成と、その生体適合性材料への応用研究を通じ、高分子材料-タンパク質-細胞間の相互作用について段階的に検討するとともに、高分子構造-生体適合性の相関性を明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、新規生体適合性ポリオレフィンの創製を目的としている。具体的には、申請者が独自に見出した血液適合性ポリオレフィンの化学構造を基に高分子を合成し、発現する機能と物性、および高分子構造との相関性を明らかにすることで、機能発現にかかる機序を解明することを目標としている。 ポリエチレン主鎖に異なる側鎖間隔で3-メトキシプロピル基を導入した高分子について、抗血栓性の指標である血小板粘着試験を行った。その結果、側鎖間の炭素数が4炭素以下の場合に、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)と同等の抗血栓性を発現することが確認された。高分子の物性と抗血栓性の相関を理解するため、固体NMR測定法を用いて高分子中での水の運動性を評価した。合成した高分子に重水を含侵させ、生体温度(37℃)で水和水の運動性を評価したところ、抗血栓性の高い高分子は、マトリクス中での水の分子運動性の含水率依存性が低く、高含水率まで高分子と水がより均一に混和していることを示唆する結果を得た。 一方で、水が相互作用していると考えらえる側鎖末端のメトキシ基の運動性は、側鎖密度が低い場合に含水/非含水時においてさほど変化せず、側鎖密度が高い場合(側鎖間の炭素数が4以下の時)に運動性の向上が確認された。この変化は側鎖の水和による可塑効果に起因するものと考えられ、側鎖密度の高い高分子では、含水環境において高分子-水相互作用が高分子-高分子相互作用よりも優位となることが示唆された。 上記の結果は、含水環境において高分子が水和による可塑化を受け、高分子鎖が運動性を獲得した結果、抗血栓性が向上したことを示唆する結果であり、同一の側鎖構造を有し、側鎖間隔のみを変化させた高分子を用いた検討によって得られた成果だと言える。 上記の研究過程で得られた成果については、関連論文1報、学会発表3件として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究課題の進捗状況に関しては、おおむね順調に進展しているといえる。 研究実績に記載した検討の結果および考察からは、高分子鎖が水和を受けた場合に運動性を獲得することができなければ、抗血栓性の発現の程度は低いことが予想される。そこで今年度は、高分子の主鎖を柔軟なポリエチレン構造から剛直なシクロオレフィンポリマー構造に変更し、高分子主鎖の運動性を意図的に低下させた場合に、水和によって生じる高分子物性と抗血栓性の変化、およびメトキシ基の運動性の変化がどのようなものになるのか、知見を得ることにした。具体的には、側鎖にPMEAと同じ2-メトキシエトキシカルボニル基を有し、主鎖骨格をシクロオレフィンポリマーであるポリノルボルネンとした高分子の合成した。5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸と5-ノルボルネン-2-カルボン酸を2-メトキシエタノールとの反応によりエステル化し、モノマーユニット内に2本、もしくは1本の側鎖を導入したモノマーを得た。Grubbs触媒を用いたROMPを行ったのちに水素添加反応により主鎖の還元を行い、目的とする飽和炭化水素系ポリマーを得た。 得られた高分子について、各種分光法を用いた化学構造解析と、GPCを用いた分子量評価を行うことにより、目的とする高分子が得られたことを確認した。 新規合成したポリノルボルネン系高分子について、NMR法を用いた解析を行った結果、メトキシ基の運動性は主鎖構造の違いによらず側鎖密度に依存していることが確認された。また、固体NMR法を用いた水和水の運動性の解析を開始し、現時点では柔軟なポリエチレン主鎖の場合と剛直なポリノルボルネン主鎖の場合で、含水率に対する水和水の運動性の変化率が異なることが示唆されている。次年度初頭から血小板粘着試験による抗血栓性の評価を行っていく予定である
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今後の研究の推進方策 |
これまでに合成を達成した高分子のうち、ポリエチレンを主鎖とし、2炭素おきに炭化水素鎖型の側鎖を有する高分子の合成では、重合に用いる適当な触媒と重合系が見いだせておらず、現時点でも保護、脱保護、高分子修飾反応を経由する合成を行っている。今後も目的の高分子を簡便に合成するための経路の探索を継続する予定である。 今年度中に合成した2種のシクロオレフィン系ポリマーを用いた検討では、含水高分子のDSC測定において水の低温結晶形成が観察されている。この水の分画が多い高分子であるほど抗血栓性が高いことが報告されており、新たに合成したシクロオレフィン系ポリマーでも血小板の粘着を抑制し、抗血栓性を発現することが期待される。2023年度中に抗血栓性評価を完了し、成果発表をする予定である。 また、2021年度に見出した知見に基づき、ポリエチレン主鎖に対する側鎖の導入間隔を拡大したにもかかわらず、水の低温結晶形成と抗血栓性を発現する高分子の合成に成功した。この高分子についても本年度から固体NMR測定法を用いた高分子と水和水の分子運動性に関する情報の収集を開始しており、抗血栓性評価の結果と合わせて高分子構造と生体適合性の相関性に関する考察を行っていく予定である。 本研究課題では、主に飽和炭化水素鎖で構成されるポリオレフィン系高分子が発現する物性、水和の状態、および血液適合性の相関性に関する検討から、高分子の化学構造-生体適合性相関の解明を目指している。次年度は、これまでに得られた知見を高分子の構造設計に反映し、化学構造の精密制御による生体適合性の制御を通じて、高分子構造-生体適合性相関の解明を行っていく予定である。
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