研究課題
基盤研究(C)
ヒト間葉系幹細胞(ヒトMSC:human Mesenchymal Stem Cell)は、既に様々な疾患の治療のために使用されている有用な細胞であるにも関わらず、その分子的な実態はよく理解されていない。本研究では、ヒトMSCの細胞寿命および老化機構を解析することに主眼を置き、細胞老化に伴って破綻する幹細胞恒常性(stemness)の維持機構を明らかにすることを目指す。即ち、本研究の成果は、ヒトMSCの最適な培養環境を整備することに繋がり、将来的には再生医療でニーズが高まる高品質なヒトMSCの大量生産および安定供給などの製造基盤技術の構築にも貢献するものである。
今年度は、これまでの成果を基に、増殖能の違いによってヒトMSCの細胞株を分類し、それぞれの細胞株が老化した時点における細胞特性と、RNA-Seq解析などの網羅的遺伝子発現解析によって得られた経時的な遺伝子発現プロファイリング結果とを比較し、ヒトMSCの細胞老化を規定する標的遺伝子群の発現変動を確認することを目的とした。培養初期(P3)と後期(P9)における遺伝子発現差(DEGs)に基づいてGene Ontology(GO)解析を実施した結果、培養早期に増殖能が低下するヒトMSCの細胞株(Low proliferative MSC)においては、「fat cell differentiation」、「embryonic organ development」、「regulation of cell population proliferation」など、分化・発生、及び、細胞増殖に関わるGO-term関連遺伝子の発現が優位に減少していることが示唆された。この結果から、Low proliferative MSCにおいては、ヒトMSCの増殖能の低下に伴い、その分化能も低下すると考えられた。一方、P9においても増殖能が維持されたヒトMSC株(High proliferative MSC)においては、GO解析の結果から、「oncogene-induced cell senescence」、「senescence-associated heterochromatin focus assembly」などの細胞老化に関連する遺伝子群の発現が有意に上昇していることが判明した。以上の結果より、細胞老化関連の遺伝子の上昇が認められるものの、培養後期においても増殖能が維持されていることから、High proliferative MSCは老化状態に陥るのを防ぐ機構も同時に機能していることが示唆された。。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定どおり、ヒトMSC株の培養期ごとの遺伝子発現レベルを網羅的に比較するために、RNA-seq解析を実施し、培養初期の細胞および培養後期の細胞(老化細胞)における幹細胞としての恒常性の違いを検証するためのデータの取得が順調に進んでいる。
昨年度に得られたRNA-seq解析の詳細なデータ分析を進めるとともに、単一細胞遺伝子発現解析も実施することにより、継続的な培養過程(細胞老化)で消失した幹細胞恒常性と相関する細胞集団画分の特定、及び、その細胞集団画分における特徴的な遺伝子の同定を目指し、本研究における網羅的遺伝子解析の更なる精度向上を図る。
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PHARM STAGE
巻: 21 ページ: 1-3
40022791132