研究課題/領域番号 |
21K12820
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 一橋大学 (2022) 秋田大学 (2021) |
研究代表者 |
吉沢 文武 一橋大学, 大学院社会学研究科, 講師 (20769715)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 生殖倫理 / 反出生主義 / デイヴィド・ベネター / 非対称性 / 生命倫理 / 非同一性問題 / 分析哲学 |
研究開始時の研究の概要 |
生殖倫理は、子どもをもうけるという私たちの選択について、倫理学的な考察をする領域である。そこで扱われる主題の一部には、「可能世界」や「存在と非存在の比較」のような概念的道具立てを用いた、抽象的な知的「パズル」のように見えるものもある。そうした議論に対しては、現実の問題を扱えていないという批判もなされてきた。しかし、それらの議論は、複雑な現実の問題をよりよく考えるために取り組む必要があるものであり、欠けているのは、抽象的思考と現実の思考の橋渡しなのであって、主題自体が現実と無関係なのではない--本研究は、そうした着想から、生殖をめぐる倫理学的「パズル」を解きほぐすことを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の核となる問いは、誕生をめぐる「存在と価値」に関する倫理学の「理論的知見」は、「現実の思考」と接続することが可能か、というものである。誕生をめぐる倫理学の学術的探究は、現実的影響が分かりやすいものだけではない。非同一性問題や反出生主義といった、不可避的に抽象的な話題が含まれる。そうした問題は、生殖に関する現実の判断に取り入れうるのかがさほど明らかではない。本研究は、生殖をめぐる抽象的思考と、現実の思考を橋渡しすることを目的に、研究課題を4つに分けている。(1)反出生主義をめぐる論争において誤解とすれ違いの理由はどこにあるのかを明確にする。(2)反出生主義をめぐる議論の背景としての非同一性問題を整理し、それを扱うための生殖の倫理のための概念的道具立てを特定する。(3)生殖の倫理のための概念的道具立てに照らして、反出生主義をめぐる混乱の背景にある「道理ある誤解」を整理する。(4)生殖の倫理の理論を現実の思考に落とし込む。 2022年度は、(2)の研究として、非同一性問題だけではなく、より広く、デレク・パーフィットが提出した生殖倫理・人口倫理の難問と呼ばれる他の問題も含めて、それらがどのように反出生主義と関連するかを整理して明確化する作業を行なうことができた(英文論文を執筆、投稿中)。デイヴィド・ベネターが反出生主義の論拠としてそうした問題の解決力を挙げているものの、この点に着目して取り組むまとまった研究はまだ存在しないため、成果として結実すれば議論状況に対する大きな貢献になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の2022年度の計画としては、1年目の計画を踏まえて、当初予定していた非同一性問題をめぐる議論状況の整理・検討から、反出生主義の批判的検討により比重をおくものに設定し直していた。その研究として、非同一性問題をめぐる文献の網羅的なサーヴェイを行なうのではなく、より広い視野のもと、デレク・パーフィットによって提出された他の生殖倫理の難問と反出生主義の関係を批判的に検討する作業を行なった。成果はまだ刊行に至ってはいないが、英文による原稿を執筆し、投稿中である。これにより、2022年度の研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の2022年度の計画は、予定通りに進捗したと判断する。今後の推進方策について、当初の予定では、非同一性問題の精査から得られた道具立てに照らして、反出生主義をめぐる論証に見られた「誤解」を明らかにする作業を進める予定であった。2022年度の研究により、非同一性問題だけでなく、より広く、生殖倫理の他の問題も含めた検討ができたため、それらの問題も含めたより広い視野で作業を進めていく予定である。他方で、さらに翌年の最終年度(2024年度)に向けて、生殖倫理に関する理論的知見と現実の思考の橋渡しをどのようにするのかを探りつつも、生殖倫理に用いられる道具立ての概念的な精緻化をより専門的に掘り下げる方向へ進めることが、現状では、確かな学術的成果に結びつきやすいのではないかと予想する。より具体的には、存在と非存在の比較という問題をより掘り下げる方向で研究を進める方向性を考えている。
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