研究課題/領域番号 |
21K12840
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福谷 彬 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (40826004)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 道学 / 朱子学 / 宋代 / 陸九淵 / 輪対 / 説得 / 陸象山 / 輿論 / 孝宗 / 朱熹 / 王安石 / 党争 |
研究開始時の研究の概要 |
官僚制度が著しい発展を遂げた中国の宋王朝(960-1279)の時代は、官僚を排出する母体の士大夫階級が政治を主導した時代であった。その時代においては絶えず政見を異にする特定の士大夫集団同士が「党争」を繰り広げた。そうした状況の中でしばしば士大夫の間で議論となったのは、いかにして公平無私な輿論としての「公議」を形成するか、という問題であった。 本研究は、南宋期(1127-1279年)に発展した「道学」と呼ばれる儒教の一派の、「輿論形成」の哲学としての実相を、道学内の諸学派の思想的多様性と、道学諸派の思想家の説得や論争の方法に着目して解明することを目的とする。
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研究実績の概要 |
2022年度は、道学において朱熹と並ぶ重要人物である陸九淵の、皇帝に対する説得方法と、彼の心学思想との関わりを、朱熹との比較を通じて分析した。 陸九淵が皇帝に直接面会して当時の政治の問題点を訴えた際の「輪対」については、朱熹が陸九淵に書簡で論評するなど、同時代の反響を知ることができる史料が比較的豊富である。これまで、陸九淵の「輪対」については、皇帝側近の腐敗、人事の刷新、対金外交の和平策から防衛策への転換の必要性など多くの点で同時期の朱熹と同方向の訴えをしていることが指摘されてきた。 本研究では、朱熹と陸九淵の間では上記のような政見の一致点があるにも関わらず、朱熹は陸九淵の「輪対」に対して不満の意を表明していることに着目して、両者の相違はいかなる見解の相違によるものであるのかを検討した。 その結果、陸九淵の皇帝に対する説得は非常に婉曲的な内容で、政治の問題点や目指すべき改革の方向性を直接的に指摘せず、皇帝が慣れ親しんだ歴史故事や文学作品に因んだ表現を多用することで、自然と改革へと皇帝の意識を誘導することを目指すものであったこと指摘した。これは人は誰でも道理としての「心」を「すでに」持っており、正しく働きかけることで、誰もが道理の存在を自覚できると考える、陸九淵の心学思想に基づく説得法と言える。朱熹は、陸九淵の説得術が皇帝に訴えるべき肝心な部分に触れず仕舞いである点に不満を持っていたのである。 日本文化研究所の共同研究会「比較のなかの「東アジア」の「近世」―新しい世界史の認識と構想のために―」での口頭発表(題目は「道学者の皇帝説得術―朱熹の封事と陸九淵の輪対をめぐって―」)で発表し、更に汲古書院の『宋代史研究会研究報告12集』に「陸九淵の皇帝説得術」として刊行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
陸九淵の皇帝に対する「輪対」に、はっきりと彼にとっての心学思想の意義を確認することができた。朱熹との違いも明瞭であり、性理学と政治との関わりについて、「説得の方法」という新たな観点から考察することができたのは大きな成果と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は朱熹・陸九淵周辺のその他の道学人士の朝廷での言論活動や、非道学人士の言論活動などを考察対象としつつ、科挙試験や朝廷の人事異動も視野に入れて、士大夫の言論活動が朝廷での輿論形成にいかなる影響を与えているのか考察したい。
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