研究課題/領域番号 |
21K12846
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 高野山大学 |
研究代表者 |
徳重 弘志 高野山大学, 文学部, 非常勤講師 (90817636)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | グヒヤマニティラカ / インド密教 / 密教経典 / 金剛頂経 / 十八会指帰 / 五相成身観 / 密教注釈文献 / 密教儀礼 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、インドで8世紀前後に成立した密教経典である『グヒヤマニティラカ』に焦点を据え、チベット語の写本・版本の校勘に基づいた文献学的見地から検討を加え、その研究水準を大きく引き上げることによって、インド密教の過渡期(7世紀後半~8世紀前半頃)における儀礼および思想の実態を解明することを目的とする。 研究成果として、最後期の「中期密教経典」という新たな研究素材を提供することにより、学際的な貢献を果たす。あわせて、同経典と『金剛頂経』系統の諸経典との比較を通して、密教経典の成立史に関する新たな基盤を構築するとともに、その成果の公共的活用を図る。
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研究実績の概要 |
本研究は、インドで8世紀前後に成立した密教経典である『グヒヤマニティラカ』に焦点を据え、インド密教の過渡期(7世紀後半~8世紀前半頃)における儀礼および思想の実態を解明することを目的としている。日本における密教は7~8世紀頃に成立した経典に、チベットやネパールにおける密教は8~11世紀頃に成立した経典に、各々が依拠している。そのため、両者の中間に成立した『グヒヤマニティラカ』は、日本と海外とにおける密教の間に思想的断絶が生じた原因を解明する上で、大きな手掛かりとなることが期待される。 本研究では、研究計画を①『グヒヤマニティラカ』に言及する注釈文献の特定およびパラレル(平行句)の回収、②12種類のチベット語訳の写本・版本に基づく本文校訂と訳注の作成、③仏教内外の文献との儀礼や思想に関する比較・対照、という3段階に分かち順次研究を遂行している。当該年度は、これらの内の②と③に関する研究を行った。 ②に関しては、全五章から構成されている同経典のうち、第五章全体のチベット語訳校訂テクストおよび和訳を完成させた上で、学術誌への投稿を行った。同章には、他の密教経典とも共通する「五相成身観」や「四種法」という儀礼や、本経典に特有の「四人の女尊」に関する記述が存在しているため、インド密教の過渡期を理解する上での重要な手掛かりと言える。 ③に関しては、同経典の第一章・第三章・第五章に存在する「五相成身観」という儀礼に着目し、その第三章と第五章とを比較することにより、第五章における同儀礼の特徴を明らかにした。当該の儀礼は、仏の位を成就するための具体的な方法と目されており、7紀頃(真実摂経)から10世紀頃(ヘーヴァジュラタントラ)にかけて、内容が段階的に変容し続けている。そのため、本経典の記述はその変遷過程の解明に資すると判断することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該科研プロジェクトでは、研究計画を3段階に分かち、順次研究を遂行している。具体的には、第1段階では密教経典に対する注釈書を対象とした『グヒヤマニティラカ』の被引用例に関する網羅的な調査を、第2段階では12種類のチベット語訳の写本・版本に基づく同経典の本文校訂と訳注の作成を、第3段階では同経典と仏教内外の文献とにおける儀礼や思想に関する比較・対照を、それぞれ行うことを計画している。 これらのうち、第1段階である『グヒヤマニティラカ』という経典名に言及する注釈文献の特定や、同経典と他の密教経典とに共通する偈頌の特定に関しては、令和3年度の時点で既に完了している。なお、令和4年度の段階では、同経典の第五章全体のチベット語訳校訂テクストを作成する過程において、他の密教経典とのパラレル(平行句)の有無に関しても調査を行っている。 続いて、第2段階である同経典(全五章)の本文校訂と訳注の作成に関しては、令和4年度の段階で、第四章と第五章に関する作業が完了しており、第三章に関しても部分的な本文校訂は公開済みである。なお、より多くのパラレルを発見するためには、チベット語訳の本文校訂と訳注の完成が調査の前提となるため、同経典の第三章を対象として継続して作業を進めている。 最後に、第3段階である同経典と仏教内外の文献とにおける儀礼や思想に関する比較・対照に関しては、令和4年度の段階で、「五相成身観」という儀礼の変遷過程を解明した上で、学術誌への投稿を行っている。なお、同経典はチベット語訳のみが現存しているが、比較対象となるヒンドゥー教の聖典はサンスクリット語で記されているため、両者を機械的に比較することはできない。そのため、ヒンドゥー教の聖典におけるパラレルの収集などに関しては、同経典各章の和訳の完成後に着手する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当該科研プロジェクトでは、研究計画を①『グヒヤマニティラカ』に言及する注釈文献の特定およびパラレル(平行句)の回収、②12種類のチベット語訳の写本・版本に基づく本文校訂と訳注の作成、③仏教内外の文献との儀礼や思想に関する比較・対照、という3段階に分かち順次研究を遂行している。令和5年度では、②に関しては同経典の第三章全体の本文校訂と訳注の完成を、③に関しては同経典の第三章におけるマンダラの特色を他の密教経典との比較を通じて解明することを、それぞれ目標としている。 まず、②に関しては、『グヒヤマニティラカ』のチベット語訳として12種類の写本・版本を利用できる状況にあり、順調に作業が進められている。なお、同経典の第一章・第二章に関しては、他の密教経典とのパラレル(平行句)が非常に多いため、それらの文献の部分的な本文校訂も行う予定である。ただし、『グヒヤマニティラカ』以外の密教経典に関しては「東京写本チベット大蔵経」(東洋文庫所蔵)を入手できていないため、可能であれば令和5年度中に現地に赴き、必要箇所の閲覧・複写をする計画である。また、当該の写本を入手でき次第、「第一章」の校訂作業にも着手することにしたい。 続いて、③に関しては、同経典の第三章はシヴァ神の調伏が主題となっているとともに、マンダラの中心となる尊格が従来の毘盧遮那如来から別の如来へと交替しているという極めて重要な特徴を有している。このような尊格の交替は、8世紀以降に成立した密教経典では主流となる思想である。そのため、同経典における当該のマンダラを対象として、尊格の交替が行われた原因の解明を目指して研究を遂行していく。
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