研究課題/領域番号 |
21K12847
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01030:宗教学関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡辺 優 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (40736857)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 近世西欧神秘主義 / 経験・体験 / 霊性史 / キリスト教 / 女性性 / ジャン=ジョゼフ・スュラン / ミシェル・ド・セルトー / ミシェル・フーコー / 神秘主義 / パウロ / アウグスティヌス / ジェンダー・セクシュアリティ / 近世西欧 / 雅歌解釈 / モンテーニュ / 神秘体験 / 体験・経験概念 / 十字架のヨハネ |
研究開始時の研究の概要 |
「神秘主義」は、「宗教とは何か」を問う宗教学にとって、最重要テーマのひとつであり続けてきた。この神秘主義の理解について、本研究を貫く問いは、これまで支配的であった「神秘体験」中心のそれとは異なる、別様の理解がありえたのではないか、ということである。この「ありえた別様の神秘主義の可能性」を求めて、本研究は、一方では、中近世の神秘主義的「経験」概念と近代神秘主義論における「体験」概念の相違と、前者から後者への変容の歴史的要因を問う。他方では、近代的体験概念とは異質な経験概念を核とする近世神秘主義の系譜が、近現代に消失してしまったのではないとすれば、どこに・どのように見いだせるかを探る。
|
研究実績の概要 |
研究三年目にあたる本年度は、体験/経験概念をめぐる近年の人文社会諸学における議論の動向の整理と、そこから見えてきた神秘主義研究におけるフェミニズムやジェンダー論の観点からのアプローチの可能性を踏まえて、中世から近世にかけての西欧霊性史における経験知の展開を主眼に置いた。本研究課題全体の焦点である17世紀フランスの神秘家ジャン=ジョゼフ・スュランについて、パウロの聖霊論やアウグスティヌスの身体的霊性と関連付けて考察し、スュランの神秘主義のダイナミズムを「霊のことば」に見出した(論文1本)。さらに、現代的な神秘主義研究に画期を成したミシェル・ド・セルトーの未完のプロジェクトを継承展開し、身体性や女性性という論点をさらに掘り下げながら、「霊(spiritus, esprit)」という問題を言語活動の問題として捉える新たな系譜学的神秘主義研究の可能性を具体的に示すことができた(論文1本)。 他方、セルトーの神秘主義研究の意義について多角的に検討した。「宗教的危機」の時代と言われる西欧の1960年代の精神史的背景を明らかにすることによって、彼の神秘主義論それ自体をひとつの同時代的応答ないし現代的宗教思想の発現として捉えた(論文1本)。関連して、近現代のカトリックの動向を概観する論考を発表した(共著論文1本)。さらに、現代キリスト教神学におけるセルトーのアクチュアリティを主題とする国際シンポジウムに招待され、神秘主義研究を軸として彼の思想をトータルに把握する発表を行った(発表1件、国際誌に論文1本を投稿中)。 また、前年度に着手したミシェル・フーコーにおける霊性および神秘主義の位置づけとその思想的可能性に関する研究を進めた(論文1本を準備中)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初は、体験/経験概念の哲学的・系譜学的な検討を軸として、中世以降の西洋霊性史の展開を三つの局面(①中世から近世にかけての宗教思想における経験知の生成、②近世から近代にかけての体験概念の伸長、③近現代における別様の神秘的経験概念の知脈)に区別して考察することを企図していた。しかし、とりわけフェミニズムやジェンダー論の観点が本研究に提起する豊かな可能性に気づいたことから、関連文献の収集や検討のために当初の予定より多くの時間を要した。また、中世盛期から近世にかけての時代が当研究にとってもつ重要性の相対的な高まりにより、当初の見通しよりも①の段階に多くのエネルギーを傾ける必要があることが分かってきた。 しかしながら、本研究の軸となるスュラン研究やセルトー研究については、期待以上の成果を上げることができた。本年度は、コロナ禍のため長らく叶わなかった海外での調査や研究発表を行い、とくに海外の研究者との交流や意見交換を通じて、研究を進めていく上での大きな推進力を得ることができた。 以上から、総合的にみて「おおむね順調に進展している」と判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、本研究の基本軸となる、神秘主義研究の鍵概念としての体験/経験概念の再検討とその射程の提示については、前年度に行なった学会発表をベースに論文としてまとめ、『宗教哲学研究』に投稿することを目指す。また、中世ドイツ・ネーデルラントの霊性と近世霊性の関係性を主題とする国際研究集会(ベルギー)にて発表を行い、その後論文にまとめる。 フランスの研究者とのコンタクトはつねに取っているが、引き続きさまざまな機会をみて助言を得ることで研究の推進力とする。国内外での発表を契機として、新たな研究者ネットワークの構築にも努める。 2025年度に生誕100周年を迎えるミシェル・ド・セルトーの神秘主義論についても、翻訳および解説論文の執筆を進めているが、刊行のための出版助成を得たい。また、本研究課題の問題意識に基づき、西洋神秘主義の歴史を概観する単著の執筆を進める。
|