研究課題/領域番号 |
21K12873
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
串田 紀代美 実践女子大学, 文学部, 准教授 (80790906)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 伊藤道郎 / アーニー・パイル劇場 / テイコ・イトウ / 伊藤祐司 / 東洋舞踊 / アジア / 民族舞踊 / 郷土 / 文化の客体化 / ダンス・アーカイブ構築 |
研究開始時の研究の概要 |
アーニー・パイル劇場は、占領下の連合軍専用慰安施設であり日本人の立ち入りが禁じられていた。そのため日本演劇史の研究対象から除外され、内実は明らかにされてこなかった。しかし近年、劇場の総監督であった舞踊家・伊藤道郎と旧東京宝塚劇場の日本人製作関係者が協働で作り上げた上演作品の内容が、徐々に明らかになってきた。本研究では、日本、東南アジア、南米、北米の風俗と民族舞踊を題材とし、各文化のイメージを客体化することで象徴的に舞台の上に「展示」するという伊藤道郎の演出戦略を考察する。これにより、戦後の伊藤道郎の舞踊創作活動を再評価し、新たに演劇史・舞踊史に位置づける。
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研究実績の概要 |
本研究は、日本の洋舞草創期に日米で活躍した舞踊家の伊藤道郎の舞踊創作と活動実態を解明することを目的としている。今年度は、伊藤道郎がアーニー・パイル劇場で製作した「民族物」の系譜を探るべく、実弟の伊藤祐司と日系米国人舞踊家のテイコ・イトウによる東南アジアでの舞踊調査とその成果発表について一次資料から考証した。 伊藤祐司は、当時のブロードウェイに東洋的な着想を取り入れるため日本に一時帰国し、アジア諸国を歴訪し現地の舞踊・音楽の調査研究と資料収集を行った。この成果は、東洋舞踊発表会として上演されたが、演目は日本神話や雅楽、郷土芸能をはじめインド、タイ、ジャワ、朝鮮など広範囲にわたった。舞踊批評では、東洋舞踊が各舞踊の特徴を明確に打ち出している点への言及がみられ、テイコが再創造した「東洋舞踊」が一元的でなくヴァナキュラーな文化の特徴を取り入れた振付・演出であったことが示された。2人の舞踊実践から着想を得た伊藤道郎は、アーニー・パイル劇場の「民族物」の系譜へと「東洋舞踊」の系譜を繋いでいく。伊藤祐司とテイコ・イトウにより日本で再構成された「東洋舞踊」は、占領軍慰安施設の大劇場という新たな文脈で、占領軍兵士の眼前でアジアの文化的な多様性として表象されていたことが一次資料より示唆された。 今年度の成果として、さらに米国帰国後の2人の動向も把握することができた。テイコは日系人コミュニティにおける創作舞踊活動を継続するとともに、祐司のブロードウェイの舞台製作への関与が認められた。さらに米国でテイコ・イトウが主催した東洋舞踊団の構成員の中に、日系米国人舞踊家のミチコ・イセリ(井芹美智子)の名前が確認できた。ミチコ・イセリは、テイコと祐司の協力でニューヨークで舞踊活動を継続したが、1950年前後にブロードウェイの舞台に携わっていたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染の影響等により、米国調査の実施を見送らざるを得なかった。さらにテイコ・イトウが師事したタイ王国王立舞踊学校関係者の資料収集をはじめ、国立公文書館、タイ王国文化省芸術局での調査が実施できなかった。 しかし、アーニー・パイル劇場専属舞踊団による国際劇場での公演プログラムのほか、伊藤道郎ならびにテイコ・イトウ関連資料に関する貴重な資料を国内で入手することができた。さらに、伊藤祐司とテイコ・イトウによるアジア諸国の舞踊調査に基づいた「東洋舞踊」の実態と、伊藤道郎との2人の協働的な関係性がさらに明確となり、祐司とテイコの米国帰国後、日系コミュニティを中心に「東洋舞踊」を上演していたのみならず、ブロードウェイの「東洋」受容への影響関係が示唆された。 伊藤道郎は1946年3月に団員募集を開始しアーニー・パイル劇場で劇場専属舞踊団を発足させたが、約1年半後に舞踊団を解散、一部の舞踊団員を伊藤道郎プロダクションへの所属とした。さらに伊藤道郎舞踊研究所での舞踊創作活動への参加、占領軍キャンプへの出演、繊維業界や織物業界とのファッションショー開催など、舞踊創作活動の場を劇場の外へと拡大した。舞踊家・伊藤道郎の評価は戦前期の欧米での活躍に集中していたが、今年度はこのように戦後のジャンル横断的な活躍を裏付け、戦後の伊藤道郎の再評価に繋がる資料群を入手することができた。そのため、今後は伊藤道郎の生涯にわたる資料の公開に向けてデジタル・アーカイブ構築の準備をさらに進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
延期していたアメリカ合衆国ならびにタイ王国での調査研究を、2023年8月以降に実施する。米国ではニューヨーク公立図書館パフォーミング・アーツ部門での資料収集、タイ王国ではタイ国立公文書館、在タイ日本大使館、タイ王国文化省芸術局、タイ王国王立舞踊学校での現地調査と資料収集を実施する。これにより、伊藤祐司とテイコ・イトウがアジア各国で実施した現地の舞踊・音楽調査の足跡について詳細を明らかにし、2人の調査に関与した人物の特定をめざしている。このことは、伊藤祐司とテイコ・イトウの東洋舞踊観の形成と創作舞踊の実態を解明することに繋がる。さらに、2人の「東洋舞踊」の影響関係が認められる伊藤道郎のアーニー・パイル劇場の舞台作品の分析を通して、日本、アジア、米国、西洋の類型化されたモチーフとその背景にある複数の文化表象を客体化した演出戦略についても考証を進める。そのため、日米で入手が可能な新聞雑誌の演劇批評等を比較検討することで演出手法を明確化し、戦後の伊藤道郎の再評価へと繋げたい。 本研究は当初、日米両国で収集した資料をアーカイブ化することを目指していた。同様のアーカイブには、早稲田大学演劇博物館の文化資源データベースとして、千田是也旧蔵資料の一部として公開されている「伊藤道郎関連資料データベース」がある。しかし、著作権処理等の問題で大半の画像にアクセスできない状況である。そのため、アクセスが可能なアーカイブ構築が必要とされている。今後は、こうした問題を解決すべく、米国の諸機関ならびに米国の研究者等と協力関係を結び、アーカイブ構築を進める予定である。
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