研究課題/領域番号 |
21K12877
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 京都大学 (2022-2023) 東京大学 (2021) |
研究代表者 |
久保 佑馬 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD) (10898779)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 西洋美術史 / ルネサンス美術 / ヴェネツィア派絵画 / ティツィアーノ / アルプス南北の美術交流 / 南ドイツ・カトリック改革 / 石板油彩画 / ランベルト・シュストリス / カトリック改革 / アウクスブルク / アルプス南北の文化交流 / ヴェネツィア派 / パリス・ボルドーネ / 16世紀ヴェネツィア美術 / カトリック改革(対抗宗教改革) / パトロネージ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、16世紀南ドイツの商人や聖職者たちから後援を受けたルネサンス・ヴェネツィア派の芸術家たちが、南ドイツ滞在中にどのような創作活動を行ったか考察します。ルネサンス期の南ドイツでは、フッガー家などの新興商人層が権威付けのため美術の力を利用し、イタリアの芸術家たちへ絵画制作や建築設計などを委託しました。また16世紀中葉からは、南ドイツでもカトリック改革(対抗宗教改革)が盛んになり、イエズス会士を養成する大学や大学都市の装飾事業のため、聖職者たちがイタリアから芸術家を招聘しました。本研究では特にヴェネツィア派の事例について包括的に考察し、イタリア及び日本で研究書を公刊するのを目標とします。
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研究実績の概要 |
本課題では、カトリック改革(対抗宗教改革)が黎明期を迎えていた16世紀南ドイツにおいて、同時代のヴェネツィア派芸術家たちが、政治的、宗教的にどのような役割を担っていたか研究しています。特に、皇帝カール5世率いるカトリック軍とプロテスタント諸侯が争ったシュマルカルデン戦争(1546~47年)が終結した後、バイエルン地方の帝国自由都市アウクスブルクでは、戦後処理のため、たびたび帝国議会が開催されており、ティツィアーノ、パリス・ボルドーネ、ランベルト・シュストリス、ジュリオ・リチーニオといったヴェネツィア派の画家たちが、アウクスブルクへ赴き絵画制作に従事しました。5年の研究期間をいただいている本課題は、彼らのアウクスブルクにおける創作活動や、彼らの制作作品と南ドイツ・カトリック改革との関連性について、包括的かつ具体的に跡づけることを目的としています。 3年目となる当該年度では、ティツィアーノのアウクスブルク滞在(1548年、1550~51年)に関し、これまでの研究内容をまとめて口頭発表、論文投稿を行いました。2022年1月に国際美術史学会(CIHA)世界大会で英語口頭発表を行った内容を、同大会会議録のため英語論文にまとめなおし、2023年11月に論文が刊行されました。ティツィアーノの石板油彩画2点に関して分析した同論文の内容は、2024年2月にドイツのハンブルク大学でも英語口頭発表を行いました。国内では、2023年11月に美術史学会の西支部例会(京都市立芸術大学開催)で、ティツィアーノがアウクスブルクで描いたザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒの肖像画2点に関する口頭発表を行い、同月末、同学会の学術誌『美術史』に論文投稿を行いました。論文は採択され、2024年10月ごろ刊行の予定です。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の研究成果は、最終的に日本語および欧語(英語もしくはイタリア語)の双方で、単著書籍として刊行することを目標にしています。単著は大きく2部構成で、第1部ではティツィアーノのアウクスブルク滞在について、第2部ではパリス・ボルドーネやランベルト・シュストリスといった、ティツィアーノに影響を受けながらも、独立した立場でアウクスブルクを訪問したヴェネツィア派芸術家たちの当地での活動、南ドイツ・カトリック改革との関連性ついて考察します。日本語単著の完成を先に目指す予定で、出版社の方との具体的な話し合いも進めております。 研究期間3年目が終了した現時点において、第1部の約半分、第2部の約3分の2について、国内外での学会発表や論文投稿・刊行まで完了しています。これまで論文を刊行した箇所でも、単著完成までに説を見直したいところはあり、そうした内容は欧米の学術誌へ英語ないしイタリア語で改めて論文投稿する予定ではおりますが、3年目終了時点でおおむね6割が完了しておりますので、進捗は順調と捉えてよいものと思われます。 当該年度も、夏にイタリアとオランダ、冬から春にかけてドイツとイタリアで研究調査を実施しました。2度とも、ヴェネツィアのジョルジョ・チーニ財団ヴィットーレ・ブランカ研究所で独立研究員を務めながら、絵画作品と文献資料の調査を進め、ヨーロッパの研究者たちと引き続き活発な意見交換を行いました。論文や書籍の執筆に加え、海外の専門研究者たちとの関係構築も進め、研究の国際性という観点からも、従前どおり順調な研究活動を継続しています。
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今後の研究の推進方策 |
4年目以降も、前述の単著書籍の未研究部分に関して、学会等での口頭発表や論文投稿を進めます。第1部のティツィアーノのアウクスブルク滞在については、ティツィアーノによるハプスブルク宮廷の女性たちの肖像画について研究し、さらに、男性肖像を含むハプスブルク一族の一連の肖像画が、アントニス・モルやサンチェス・コエーリョといったスペイン宮廷の芸術家たちへ、どのような影響を及ぼすに至ったか考察する予定です。第2部についても、ややマイナーにはなりますが、ジャン・パオロ・パーチェ、ジュリオ・リチーニオといったヴェネツィア派芸術家たちのアウクスブルク滞在について、絵画作品や文献資料を収集・整理しながら、可能な限り南ドイツ・カトリック改革との関連性を跡づけます。 4年目以降の重要な課題は、そうした未研究部分の口頭発表や論文投稿に加え、すでに日本国内で論文刊行を終えた内容に関し、必要に応じて自説を修正して、欧米学術誌に論文投稿するという作業です。例えば、ティツィアーノの弟子でもあったランベルト・シュストリスに関しては、2023年以降、ボローニャ大学のマウロ・ルッコ名誉教授と本格的な共同研究を再開しており、2022年に『地中海学研究』第45号で公刊した論文内容よりも、研究が著しく進展しています。特に、シュストリスの様式変遷に関する再考察や、具体的作例の作者帰属、制作年代推定の見直しなどは、国際的にみても重要な新知見といえますので、なるべく早々に欧米学術誌へ英語論文を投稿したく思っております。
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