研究課題/領域番号 |
21K12907
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01080:科学社会学および科学技術史関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 有紀 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (10632680)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 江永 / 中国科学 / 数学 / 翼梅 / 術数学 / 梅文鼎 / 考工記 / 鐘 / 科学 / 技術 / 自然 / 人間 |
研究開始時の研究の概要 |
中国における「科学」と「技術」の哲学について、清代の思想家の江永(1681-1762)の著作から「自然」と「人間」をめぐる思想を読み解き、「人間」が「自然」に対して何らかの分析をし役立てようとする人類の普遍的な試みと捉えた上で、西洋科学と比較し、人間にとって「科学」「技術」とは何かを考察する。「中国科学」を「哲学」として捉え、清朝考証学に大きな影響を与えた江永の科学史上の功績に言及するだけではなく、彼が「人間は自然に対してどのように働きかけるべきか」「自然を構築している理論をどう捉えるべきか」「その理論を人間がどう応用し、役立てようとするのか」について、どのように考えているかを分析する。
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研究実績の概要 |
本年度は江永の天文学著作である『数学』を主に分析した。『数学』は『翼梅』とも称し、梅文鼎の理論に深く影響を受けた江永が、その理論を補い発展させることを目的としたものであるが、書中では度々梅文鼎に異を唱えており、江永独自の見解も窺うことができる。江永は、地円説や黄金比は、洋の東西を問わず普遍的に存在する真理であり、聖人である以上、これらを知っているのは当然だと考えた。その上で彼は、後世の人間が努力すべきことは、これらの真理を応用し役立てること、我々も使うことのできる「技術」として磨きあげることだと考えている。 論文「中国音楽と術数学:江永『律呂新義』『律呂闡微』における易図の分析」(『東洋文化研究所紀要』182、pp.1-23、2023年1月)は、江永の術数学が彼の音律学においてどのような意味を持っているかを分析することで、彼の天文学と術数学の関係について考える手掛かりとした。口頭発表“Western and Chinese technology: Criticism of Jiang Yong’s (江永) Yimei (翼梅) to Mei Wending (梅文鼎)”(Exploring Asian Connectivities: Topics, Methods, and Implications: 1st Global Asian Studies Joint Workshop [IASA and CLASS/CoHASS]、 2023年3月24日、南洋理工大学)では江永が梅文鼎に対して行った批判を取り上げ、彼が中国と西洋の天文学を比較し、二十四節気をどのように定義するかについて分析した。また『朱子語類』巻二十一訳注(四)(『汲古』81、pp.32-38 2022年6月)及び『朱子語類』巻二十一訳注(五)(『汲古』82、pp.40-50、2022年12月)は、江永の思想の基盤となった朱熹の語録である『朱子語類』に対し訳注を作成する基礎的な研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は江永の別の天文学著作である『推歩法解』を分析する予定だったが、『翼梅』を中心に彼の天文学理論を具体的に掘り下げて分析することにした。その結果、梅文鼎との比較も行った方が良いことに気が付き、当初2023年度に研究する予定だった同時代の思想家との比較を先に行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度ではこれまでの研究をまとめた上で、梅文鼎など同時代の思想家との比較をさらに進め、さらには戴震などその後の清朝考証学への影響をふまえ、清代における江永の思想の意義を明確化する。また、自身のこれまでの研究を生かし、江永のその他の著作(『律呂新論』『律呂闡微』など音律学の著作)を再分析し、江永の「科学」「技術」論が、彼の学術全体の中でどのような位置付けを与えられるのかを考察する。そして、清代に止まらず、中国の「科学」「技術」の歴史について新しい見方を提示し、改めて清代初中期の思想家たちが、「知」に対してどのような態度を有していたのかを検討したい。以上については、日本や英語圏の科学史の学会で発表し、西洋科学史の専門家に意見を聞いた上で、英語で論文を執筆したい。その際、中国固有の問題として終わらせてしまうのではなく、「人間」の「自然」に対する態度を問うものとして、東西に共通する普遍的な議論へと発展させていくことに注意したい。
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