研究課題
若手研究
鮎川信夫、田村隆一ら「荒地」グループとその周辺の詩には、キリスト教を背景とした宗教的・神話的表象が横溢しており、それらは日本国家における大戦や被爆の経験を全人類的な文明史に接続する試みであったといえる。そうした表象を包括的に検証することによって、大戦後の荒廃や、核兵器の出現による新たな現代的危機といった世界的課題に日本の戦後詩人がどのように応答したのかを明らかにし、世界的な文明批評の言説の一環に戦後詩を位置づけることを目指す。
2023年度は、本研究課題の最終年度までに実施予定であった学際的な研究集会を実行に移すなど、これまでの蓄積をふまえた成果発信をおこなった。まず、昨年度に復刻を手がけた1950年代の詩誌や、そこに見出された文明批評性をめぐって、より広い思想史的な文脈で議論するため、社会倫理学や哲学を専門とする諸氏とともにパネルシンポジウムを開催した。申請者の発表においては、戦後詩人たちにおける翻訳詩を通した国際情勢への共鳴、とりわけポストコロニアル状況への先駆的な批評性を明らかにするとともに、キリスト教および教会の持つ人的ネットワークの重要性を指摘した。後者の点については、キリスト者として50年代詩の一角を牽引した花崎皋平氏の登壇により、当時の詩と思想の関わりについて貴重な証言を得ることも出来た。当日は50名を超える参加者を得たほか、登壇者たちの発表と質疑応答の記録を『明治大学日本文学』第48号(2024年3月)に発表した。また本年度は、上述の花崎皋平と同世代であり、現在に至るまでマスメディアとの連携によって〈国民的詩人〉の地歩を固めてきた谷川俊太郎に関する論考(『ユリイカ』2024年2月)も執筆した。50年代後半における谷川俊太郎が象徴天皇制に大きな期待をかけ、天皇を中心とした国民統合への夢を語っていたことを、実父である谷川徹三からの影響も含め詩作品に即して論証した。これにより、従来、時代のイデオロギーから自由な詩人として特権化されてきた谷川を幅広い歴史の中に位置づけ、詩史記述を刷新する新たな切り口を示すことが出来た。また、こうした50年代の戦後詩の思想的帰趨を探る作業の一環として、1980年代における鮎川信夫の位置について考究し、前年におこなった口頭発表を元にした論考も発表した(T.S.ELIOT REVIEW 2023年11月)。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、他の研究者諸氏との協働の上、既存の学会の枠では難しい学際的なシンポジウムを実現させることができ、それによる発展的な課題も多く得ることができた。とりわけ、市民運動家としては知られていても、50年代詩人としてはほぼ忘れられてきた花崎皋平をシンポジウムに招き、質疑応答を含めその談話を記録することができたのは大きな収穫であった。ただし、そうした協働の場を実現するには様々な細かい調整が必要であり、主催者としての役割を担ったぶん、その他のいくつかの成果報告には遅れが出ていることは否めない。雑誌『世界文学』や田村隆一の終末思想をめぐる論文の発表は現在準備中であり、課題を2024年度に延長することとなった。以上のように、周囲の協力や調整を必要とする活動で大きな成果を得た一方、申請者個人の作業に遅れも生じていることから、(2)と判断した。
【現在までの進捗状況】で述べたような理由により、本研究課題は一年延長することとなった。2024年度は、まず、現在準備中の論文を学会誌に投稿し成果発表する予定である。本研究計画の遂行中に生じた新たな課題を発展的に接続させられるよう努めたい。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件) 図書 (2件) 備考 (2件)
「ユリイカ」
巻: 56 ページ: 321-333
明治大学日本文学
巻: 48 ページ: 16-25
巻: 48 ページ: 46-60
「文学・語学」
巻: 237
T.S.ELIOT REVIEW
巻: 34
「明治大学日本文学」
巻: 47
「昭和文学研究」
巻: 86
「現代詩手帖」
巻: 64(8) ページ: 20-35
巻: 64(8) ページ: 36-47
巻: 8383 ページ: 240-242
40022736310
巻: 64(9) ページ: 104-114
40022682222
https://gyoseki1.mind.meiji.ac.jp/mjuhp/KgApp?kyoinId=ymbygegmggy
https://gyoseki1.mind.meiji.ac.jp/mjuhp/KgApp?resId=S002458