研究課題/領域番号 |
21K12946
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
永川 とも子 九州大学, 言語文化研究院, 助教 (90805706)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 原爆の語り / ヒロシマ・ナガサキ / 証言文学 / アラキ・ヤスサダ事件 / 当事者性と非当事者性 / 被爆証言 / 記憶と回想 / アラキヤスサダ事件 / 加害と被害 / 長崎原爆 / 文学研究 / 浦上 / 核批評 |
研究開始時の研究の概要 |
第二次世界大戦終結から76年の間、長崎原爆について描かれた欧米圏の文学作品は、ジャンルを横断して世に送り出されてきた。多くは国境を越え流通しており、「被爆証言」に焦点を当てた作品も存在する。1990年代頃を皮切りに、加害/被害の構図を攪乱し、語りの「当事者性」自体を問題とするような実験的テクストも登場している。しかし、これまでの欧米圏の核批評空間の中で、これらのテクストは、「欧米圏の語り」という類型に組み込まれてこなかった。本研究は、ナガサキを巡る欧米圏の批評空間の閉鎖性を問題とし、長崎原爆文学作品を検証することを通し、過去の出来事を「語り直す」ことの可能性と批評的意義を明らかにする。
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研究実績の概要 |
欧米圏の言語空間において核/原爆が表象される際、途方もない数の文学作品がこれまで世に送り出されてきた。こうした作品は核使用の是非を巡る論議や終末論を焦点化したものが顕著であり、「被爆者の証言」はいわば未登録の言説として周縁化されてきたと言える。 しかし、被爆者の物語は全く語られてこなかったというわけではない。実際は1980年代を主たる起点として現在にいたるまで、一定数の被爆証言文学が登場していることも事実だ。こうした作品群の類型パターンとしては、被爆証言に依拠し、体験していない者が聞き語りをするという、いわば「記憶の記録」というスタイルをとっている点が挙げられる。 「証言文学」を巡るこうした背景を念頭に、当該年度においては主に近年になって欧米圏で発表された広島・長崎への原爆投下を巡るノンフィクション作品を題材に、英語論文の作成及びシンポジウム等での発表を行った。とりわけ焦点を当てたのが、2010年にアメリカで発表され、物議を醸した被爆証言文学The Last Train Hiroshimaである。本作は初版において、作中登場人物の証言の真正性に嫌疑がかかり、発禁処分となったものの、2015年に校正版が再出版された経緯を持つ。この「語り直し」は、できる限り「不確かな」情報を削除することで、「真実」に近づこうとする試みと解することもできるが、裏を返せば、証言の真正性に対する無条件の信頼を意味してもおり、戦争は「体験した者」しか語り得ないという幻想を補強しているとも解釈することができる。当該年度の研究では、証言への絶対的な依拠が内包する問題を顕在化し、「欧米圏の原爆の語り」という枠組みにおいて周縁化されがちであった被爆体験記の位置を問い直すことができたという点において意義のあるものであったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では学会でのディスカッションを通し、大学内外での領域横断的な意見を取り入れることができたという点において意義のあるものであったと認識している。また英語論文の執筆に際しては、他分野の専門家から意見を得る機会があり、今後の研究にとって貴重な視座を得ることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
出来事の「当事者」の証言は、これまでの文学研究・記憶研究において一級資料として重んじられてきた一方で、ここ数十年の間ではヒロシマ・ナガサキの被爆者、あるいはもっと広い意味で「戦争の体験者」を装った「偽の証言文学」が登場してもいる。中には単なる虚偽として、倫理的に問題があるものも含まれているのだろうが、このような文学の形態には、出来事の語り方を巡る新しい視座と可能性があるのではないかとも考える。今後は記憶研究の理論を取り入れながら、証言文学の文学史上での位置を巡って考察していく。
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