研究課題/領域番号 |
21K12947
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 一生 九州工業大学, 教養教育院, 講師 (70883544)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | アメリカ文学ロマン主義 / ハーマン・メルヴィル / ナサニエル・ホーソーン / 反知性主義 / キリスト教カルヴィニズム / 機械表象 / アメリカ文学 / 英米文学 / アメリカン・ルネサンス / エドガー・アラン・ポー / サイボーグ / リアリズム / 産業革命 / 人工的身体 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、19世紀中盤から20世紀初頭にかけてのアメリカ文学ロマン主義・リアリズム散文作品における、人工的な身体と人間の関係を精査し、産業革命が各作家の宗教観へ与えた影響を明らかにする。工業化が急速に進んだ同時代の作家たちは、機械と人間の関係を創造物と創造主の縮図として描くことで、人間が創造主へ近づくことの是非を問いに付した。本研究では、産業社会の黎明期を生きた文学者たちが抱えた宗教的葛藤を分析することで、現代アメリカ社会における産業倫理の諸問題を、宗教的観点から理解するための手掛かりを見出したい。
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研究実績の概要 |
今年度は、以下3つの観点からハーマン・メルヴィル作品を中心に精査することで、19世紀中葉のアメリカが抱えた宗教的諸問題の広い視点から、ロマン派における人工的身体や知性の問題を把握することを目指した。 (1) 知性・反知性の和解:口頭発表「Herman Melvilleと反知性主義」では、知性や脳の表象とキリスト教カルヴィニズムにおける神意の問題の結びつきが明らかになったことで、メルヴィルが描く知性と反知性の和解が持つ宗教的意味合いに対する理解が進んだ。また、上記の文脈における人工的身体のモチーフが果たす役割を解釈するための手掛かりもつかむことができた。以上の内容は2024年度中に論文として投稿予定である。 (2) 終末論的破滅と創造への転化:口頭発表「訪れない救いを待つ――メルヴィルによる黙示録の変奏」では、『ピエール』における終末論的表象を分析し、メルヴィルが終末論的破滅を創造へ転化させる芸術的手法を論じた。破滅から再生を生む過程の議論においては、ナサニエル・ホーソーンからの影響に言及しつつ、火のモチーフが重要な役割を果たしていることを指摘した。 (3) 小説的動力の創造:口頭発表「静寂を囲う珊瑚礁:『ピエール』における宿命と自由意志、真と偽、血統の問題が生み出す小説の力学」では、カルヴィニズム的な神意と血統の問題が絡みあってピエールに作用する動力の創造について論じた。その動力を否定するピエールは、運命の鋏に足の腱を切られるタイタンとなり停止を余儀なくされる。しかし、メルヴィルはそうした運命や血統の問題が絡み合う動力を否定した先に現れる停止=死に救いを与える。その文学的救済を実現するのが、環礁の中心に静寂を囲い込む珊瑚礁や、一切の動きを止めた植物のモチーフであることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記したように、メルヴィル作品の文献調査については、本研究課題に沿って順調に進展し、ほとんどの内容を口頭発表として公表することができた。しかし、発表内容の加筆に時間が掛かり論文としての公表は次年度に持ち越しとなった。また、ナサニエル・ホーソーン作品に関する文献調査が進んで一定の成果が得られたものの、口頭発表や論文として公表するには至らなかった。以上の理由から、本年度の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度である2024年度には、現在進行中のナサニエル・ホーソーンに関する文献調査の成果を論文として公表し、これまでに本研究が得た成果と結びつけてアメリカ文学ロマン派における人工的身体と宗教的諸問題の関係についての包括的な議論の構築を目指す。また、これまでの本研究では、アメリカ文学リアリズム作家についての検討が遅れているため、主にマーク・トウェインの作品を手掛かりにして調査を進めていきたい。そのうえで、アメリカ文学ロマン派からリアリズムにおける人工的身体や機械表象の問題を、知性にまつわる宗教的諸問題との関連から大きくとらえて批評することで、本研究課題の仕上げを行っていきたい。
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