研究課題/領域番号 |
21K12967
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 南山大学 (2022-2023) 大谷大学 (2021) |
研究代表者 |
麻生 陽子 南山大学, 外国語学部, 講師 (00844367)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | ガリツィア / オーストリア・ハプスブルク / 東方ユダヤ人 / ヨーゼフ・ロート / ウクライナ / ハプスブルク帝国 / ウクライナ・ポーランド / アメリカ移住 / 東欧ユダヤ人 |
研究開始時の研究の概要 |
複数の異なる民族や宗教、言語や文化が混在しハプスブルク帝国の周縁をなしたガリツィア地方は、両大戦のトラウマ的記憶だけでなく、失われたユダヤ文化などがなおも息づく場所として、オーストリアやポーランド、ウクライナで見直されている。本研究では、「貧困」「後進性」「調和」などのガリツィアのイメージがいかに生成されたのか、その過程をドイツ語文学を手がかりに考察する。19世紀後半の社会現象(ナショナリズムや工業化、移住など)のみならず、実地調査では文化的豊饒さを伝える「痕跡」にも着目することで、現実との矛盾をはらみながらもこの地方を憧憬の対象へと変容させた「ガリツィア神話」の諸相を明らかにする。
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研究実績の概要 |
オーストリア・ハプスブルク帝国の北東の周縁部に位置し、西欧とロシアとの境界領域をなしたガリツィアは、帝国崩壊と同時に消滅した。しかしながらガリツィアは多民族共生時代を象徴する歴史的・文学的な空間として繰り返し描かれ、それはガリツィア神話として現在もなお人々の関心を引きつけてやまない。 2023年度もひきつづき、ガリツィアを特徴づける要素のひとつである「東方ユダヤ人」に注目し、東ガリツィア出身のドイツ語作家ヨーゼフ・ロートの長編小説『ヨブ ある平凡な男の物語』(1930)のテクスト分析および活字化の作業を進めた。作品舞台はロシアではあるものの、ガリツィア的風景が盛り込まれた本作では、東方ユダヤ人一家のアメリカ移住がテーマとされている。両大戦間期において、同化を選択する生き方と同化を選択しない生き方との間にあって苦悩する東方ユダヤ人が聖書のモティーフと重ね合わせるようにして描かれている。 第二次世界大戦によって民族的多様性は失われ、ユダヤ文化は破壊されてしまったが、それでもなお戦火等を免れ現存する建造物等からは、かつて多民族が混在したガリツィアの痕跡をたどることができる。実際にそうしたものを確認するべく、2023年度末には、もうひとつの科研費(19K23090)も併用して、ポーランド南部クラクフ、ウィーン、ワルシャワに赴いて調査を行った。クラクフの歴史博物館、クラクフやワルシャワのシナゴーグ内の展示物を通して、ユダヤの文化や当時の生活風景を伝える映像資料を閲覧することができた。ことにクラクフのユダヤ人地区での散策を通して、多言語時代の痕跡としてのゴースト・サインを発見できた。この地区のかつての雰囲気を醸し出すべく新たに描かれたフェイクのゴースト・サインも多数目にすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
『ヨブ』にかんする論文の投稿を行ったが、掲載が却下されたこともあり、大幅な修正が求められた。そのため、2023年度内の論文発表は実現しなかったため。また、ロシアによるウクライナ侵攻により、旧ガリツィアの中心都市が点在するウクライナ西部への渡航が実行できない。
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今後の研究の推進方策 |
『ヨブ』の校正作業後には、よりガリツィアと密接な関係のあるロートの他作品の分析を行う。同時に、今後より広い視野でガリツィアの文学を検討するべく、カール・エーミール・フランツォースの作品のテクスト分析を行う準備をはじめていく。 今年度中のウクライナのリヴィウ等への渡航は難しいと思われるため、クラクフ以外、当時ユダヤ人街として知られたポーランドの町で現地調査をひきつづき行いたい。
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