研究課題/領域番号 |
21K12970
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02050:文学一般関連
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研究機関 | 成城大学 (2022) 東京大学 (2021) |
研究代表者 |
吉川 斉 成城大学, 文芸学部, 准教授 (60773851)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 古典受容 / イソップ / 文献学 / 西洋古典 / 比較文学 / 翻訳 / イソップ集 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、近世ヨーロッパにおけるイソップ集の諸相を、とくに16世紀に刊行されたイソップ集を中心に検討したうえで、16世紀末に日本で翻訳刊行された『エソポのハブラス』を分析し、その想定しうる原典などについて新しい知見の獲得を目指すものである。(1)16世紀のヨーロッパで出版されたイソップ集の実態調査、(2)同時期のイソップ集の社会的位置づけの解明、(3)同時期のイソップ集の様態をふまえた『エソポのハブラス』の分析、という3点への取り組みを中心的課題とする。
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研究実績の概要 |
令和4年度の成果は、大きく以下の3つにまとめられる。 1)継続的に検討してきた近世印刷本ファエドルス集について、1600年前後に刊行され、近世の各種ファエドルス集の基礎となったPithoeusおよびRigaltiusによる刊行本の詳細な分析を行い、論文にまとめた(2023年4月刊行)。おもな考察対象は1596年刊行のPithoeus本および1617年刊行のRigaltius本の二種である。ファエドルス集の主要写本は9世紀頃の写本Pと写本Rであるが、Pithoeusは写本Pを、Rigaltiusはさらに写本Rも利用して、ファエドルス集を編纂した。検討の結果、これらの印刷本が、個々の話の配列は写本のそれを遵守していること、その一方で、個々の話やテクスト、巻の分け方等には、編者それぞれの判断が反映されていることが明らかとなった。同時に、こうした在り方が、19世紀以降に刊行されたファエドルス集とは性質の異なるものであることも確認できた。 2)香川大学図書館神原文庫所蔵の西洋近世印刷本(修辞学関係)、および、明治・大正期日本のイソップ・教育関係資料の調査を行った。神原文庫は、明治17年生まれの法学者で香川大学初代学長となった神原甚造氏旧蔵のおよそ12000点の図書・資料からなる文庫である。本調査の結果、書誌情報のみでは把握できていなかった明治期日本刊行の英語版イソップ集を知るに至り、近世以降のイソップ集の伝播を考えるうえで有意義な気付きを得られた。 3)17世紀の学者による書き込みのある、1517年刊行ホメロス全集をお借りする機会を得、全ページのデジタル画像化に取り組んだ。資料の性質上、画像の公開は予定していないが、近世の印刷本や古典学等について考察する手がかりとなる貴重なデータであり、近世のイソップ集と並行して、今後検討を進める必要があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、前年度から取り組んできた近世印刷本ファエドルス集についての研究を進展させ、その成果を論文にまとめることができた。とりわけ近世までのファエドルス集と近代以降のファエドルス集の相違については、当初さほど意識していなかったものであり、本研究課題の「イソップ集」の諸相および伝播に関わる問題として、非常に有意義な気付きとなった。 このことは、当時の人々の写本やテクストとの向き合い方にも関わる問題でもあり、必ずしも「イソップ」に限定されるものではない。その点では、16世紀初頭刊行、17世紀の学者の手が入ったホメロス全集のデジタル化を実施できたことは、近世におけるそれらの問題を検討するための基礎的な準備が進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、17世紀を中心として、一定の成果をあげることができたが、令和5年度は、ここまでの気づきに基づく研究を進展させる。その一方で、16世紀のイソップ集をめぐる状況を改めて探求し、大きな目標として、『エソポのハブラス』(あるいは『伊曽保物語』)につながる手がかりの可能性を探りたい。
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