研究課題/領域番号 |
21K12987
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 (2022-2023) 獨協大学 (2021) |
研究代表者 |
佐藤 恵 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 助教 (50820677)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | ドイツ語史 / 歴史語用論 / 話しことば / 言語の標準化 / 言語意識 / 言語規範 / 学校教育 / 歴史社会言語学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、聴力を失ったベートーヴェンが1818年~1827年にウィーンで用いた筆談帳に書き込まれた発話を分析することによって、19世紀初頭のバイエルン・オーストリア方言圏の話しことばにおける標準化の進捗状況を調査するものである。ここには彼自身と家族の他、友人、出版者、パトロンの伯爵、劇作家、学校教師、写譜者から家政婦に至るまで、多様な人物たちの発話の断片が書き込まれている。本研究の目的は、話し手・聞き手の社会的属性と発話状況という2つの観点から異形選択(標準形vs.方言形)に関わる言語意識を復元し、その言語意識が19世紀初頭のドイツ語史に関する研究にどう貢献するのかについて考察することである。
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研究実績の概要 |
本研究で言語資料とするのは、聴力を失いつつあるベートーヴェンがバイエルン・オーストリア方言圏のウィーンで使用していた筆談帳である。昨年度に引き続き、《社会的属性(職業・教育の程度等)と異形(Variante)選択との対応関係》、つまり「話し手の社会的属性が異形選択にどう関わっているのか」という観点から、筆談帳の質的分析を進めた。初等教育しか受けていないと想定される人物の場合に方言形が多く見られ、綴りも規範的な正書法から逸脱しており、発話音声を筆写したものと思われる。一方、高等教育を受けた人物の場合には方言形はほとんど見られないだけでなく、書きことば的な異形の使用が目につく。例えば、『ウィーン新聞』編集長であったベルナルトやベートーヴェンの甥カールが通っていた寄宿学校の校長であったブレヒリンガー、甥カールの場合、関係代名詞welcherの頻繁な使用、話しことばでは通常脱落する名詞与格語尾-e(例えば sammt dem Brodtgelde)の付加、冠飾句、受動態の使用頻度の高さなど、書きことばの言語的特徴が顕著である。カールの教育歴については、1823年まで複数の寄宿制私立学校で教育を受けたあとウィーン大学に進学し、さらに1825年には工芸学校(後のウィーン工科大学)で学んだことが分かっている。19世紀は、18世紀半ば以降にドイツ語圏各国で導入された一般就学義務がようやく実を挙げ、広範に普及するに至った時代とされている。今後は高等教育を受けた話者の言語使用に焦点を当て、甥カールを一例として、彼が教育を受けた学校のカリキュラムや国語教科書の分析を通じ、「当時の学校教育の中で媒介されていた言語規範が実際の言語使用にどのように、またどの程度反映されていたのか」、その実態解明を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「誰が誰に対して」、「どのような場面・状況で」、「どのような用件(意図)で」おこなった発話行為であるのか、話し手別・発話状況別の分析が可能なデータ作成を順調に進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は19世紀前半の公教育における国語教育について広く調査する一方、筆談帳が包括する時期にちょうど学校教育を受けつつあったベートーヴェンの甥カールをサンプルとして、彼が初等・中等教育を受けた諸学校における国語教育のカリキュラムや教科書、教授法の実態調査をおこない、筆談帳に記録されたカールの書き込みを通時的に分析することで、「学校教育によって媒介された言語規範が実際の言語使用にどのように、またどの程度反映されたのか」を引き続き追究する。 同時に、ベルリン国立図書館およびベートーヴェン・ハウスがWebで公開している、筆談帳原本の画像データを解析し、筆談帳に記録されたドイツ語筆記体の多彩な展開が、同じく書き手の社会的属性と相関性を持つかどうかについても考察する。
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