研究課題/領域番号 |
21K12989
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 新潟青陵大学 |
研究代表者 |
新国 佳祐 新潟青陵大学, 福祉心理学部, 准教授 (60770500)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 言語理解 / メンタルシミュレーション / 視点取得 / 事象認知 / 発達段階 / 共感性 / 言語間比較 |
研究開始時の研究の概要 |
人は言語を理解する際、その内容を視覚的イメージとして心内に思い描く(メンタルシミュレーション)。本研究は、メンタルシミュレーションにおいて取得されやすい視点が、個人の発達段階や背景とする文化、母語とする言語によって異なるという仮説を実験的に検証するものである。研究代表者が行った先行研究では、成人日本語母語話者は、言語によって描写される事象を客観的視点から思い描きやすいことが示されている。本研究では、早期の発達段階にある話者や、文化的背景・母語が日本(語)と異なる話者に同様の客観的視点の選好がみられるかを検討することにより、メンタルシミュレーションの基盤となる認知特性の存在と性質を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究課題の主たる目的は、言語理解中に行われる事象のメンタルシミュレーションの様式に、発達段階や母語、背景文化による違いが存在するかどうかを実証的に明らかにすることである。この目的の達成のため、主な研究として、本年度は幼児(6-10歳)を対象に、文-絵一致選択課題を用いた実験を実施した。この実験では、対象児に、「〇〇は今、にんじんを切っているところです」のような文を読み聞かせ、その後4つのイラストの中から文の内容と一致する絵を選択させた。文中の主語(〇〇)には対象児の名前(xxちゃん)または動物名(例:うさぎさん)であり、4つのイラストには文中の行為(にんじんを切る)を行為者の視点から描写した絵と、観察者の視点から描写した絵の両方が必ず含まれていた。分析の結果、対象児は、先行して呈示される文の主語によらず、行為者視点から描写された絵を好んで選択することが示された。この結果から幼児は、言語理解において、文の主語にかかわらずある程度一貫して行為者の視点を取得しつつメンタルシミュレーションを行っていることが示唆される。このような傾向は、申請者らの先行研究においてみられた、行為者よりも観察者の視点からメンタルシミュレーションを行いやすい成人(日本人)の傾向と対照的であり、言語理解におけるメンタルシミュレーションの様式の発達的変化の存在を伺わせる重要な知見である。具体的には、自己中心的に物事を捉える幼児期の認知的特徴が、メンタルシミュレーションにおける視点取得にも反映され、自己中心性を脱していく(脱中心化)過程でメンタルシミュレーションも自己中心的(行為者視点選好)なものからより客観的(観察者視点選好)なものへと発達的変化を遂げるものと考えられる。この仮説は本研究で当初から予測していたものでもあり、その妥当性を検証できた点で有意義な研究を遂行することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
期間終了までの本研究の計画は、1)日本語を母語とする成人、2)日本語を母語とする子ども(幼児)、3)英語を母語とする成人をそれぞれ対象として、可能な限り同一の課題を用いた実験を実施することにより、言語理解中のメンタルシミュレーションにおける視点取得の様式に関する発達段階・母語・背景文化による個人差を明らかにすることである。このうち本年度までで1)、2)の遂行を完了しており、研究は順調に進行していると判断できる。ただし、本年度実施した2)の実験研究については、一部のデータの分析が完了しておらず、予定研究期間の最終年度である次年度にデータ分析を完了させる必要がある。3)の実験については、次年度の実施に向けて準備を進めており、期間内に完了することができる見込みである。また、研究成果の学会・論文等での発表も本年度までに順次行っており、本年度の成果についても次年度に学会で発表し、可能な限り次年度内に論文としてまとめ、公表ができるように準備を進めている。以上の通り、当初の予定以上とは言えないものの、研究全体の進展に大きな遅れはみられないことから「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度実施した幼児対象の実験データについて、本年度に完了できなかった分析を優先的に行い、成果としてまとめ学会発表・論文執筆を行う。具体的には、対象児の個人差変数(共感性、心の理論等)に関する分析が完了しておらず、それらの変数が言語理解中のメンタルシミュレーションの様式にどのような影響を及ぼしているのかを検討するための分析を行う。類似の分析は、前年度に成人を対象とした実験データの分析の際にも行っており、分析のための下準備は整っている。これと並行して、英語を母語とする成人を対象とした実験を実施し、データ分析を早期に完了させる。英語母語話者対象の実験は、Webを通して実施可能な見込みであり、それほど多くの労力や時間は必要としない。さらに、これまで実施してきた各実験研究の成果を概観し、本研究全体の結論をまとめる。その際、知見が不足する部分があれば、随時補足的な追加実験を行う。次年度(2023)年度は、予定研究期間の最終年度となるため、本研究の将来性と課題について、学会発表や共同研究者との議論等で得たアイデアもまじえながら考えをまとめ、本研究をさらに発展させるための研究計画を考案し、新たな課題として新規科研費への応募を行う。
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