研究課題/領域番号 |
21K13117
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
肥後 時尚 金沢大学, 新学術創成研究機構, 研究協力員 (50882289)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 「二柱のマアト」 / 『死者の書』 / 「死者の審判」 / 冥界 / 「無罪の宣言」 / 「死者の裁判」 / 古代エジプト史 / 宗教史 / 文化史 / マアト / 死者の書 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、古代エジプト文化の根底にあるマアトの概念の特殊な神格化である「二柱のマアト」の実体を古代エジプト史の後半期(紀元前16世紀~紀元後4世紀)の史資料から解明するものである。 申請者はこれまで、古王国時代(紀元前27世紀~紀元前22世紀)から中王国時代(紀元前21世紀~紀元前17世紀)にかけての史資料上の「二柱のマアト」の内容を悉皆的に分析し、古代エジプト史の前半期におけるこの特殊な女神の起源とその変遷を明確化した。この成果を発展させ、本研究では「死者の書」を中心とする新王国時代からギリシア・ローマ時代までの史資料に焦点を置き、文献学・図像学的視点から「二柱のマアト」の実体解明を目指す。
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研究実績の概要 |
2022年度の研究では、前年度の研究に引き続き、古代エジプト新王国時代第18王朝時代の『死者の書』の悉皆調査に専心した。 2022年8月には、資料調査を目的としてライデン大学近東研究所を訪問し、同研究機関のエジプト学教授であるオラフ・カッパー教授をはじめとする現地の専門家との議論を行った。そして、新王国時代に制作された『死者の書』に描写される「二柱のマアト」の性格が変化の過程にあるとする見解を共有し、変化の背景にある当時の政治的・思想的背景を追求することで、「二柱のマアト」の実体の理解につながるという結論に至った。 これをうけ、第18王朝時代における「二柱のマアト」を異なる視点から分析するため、新たに「二柱のマアト」と関連する当時の来世思想の1つである「死者の審判」(「死者の裁判」)の分析に着手した。「死者の審判」は死後の復活を果たすために死者が冥界で受ける審判であり、死者は審判に先立ち生前の身の潔白を宣言する「無罪の宣言」を行う。この「無罪の宣言」の内容は、従来の研究において写本ごとの変化を示さない場面であると認識されてきた。しかし、第18王朝時代の複数の写本を比較・分析することで、同時代における「無罪の宣言」の内容は、写本ごとに明らかな相違があり、「二柱のマアト」と同様に多様性に富むことを示した。これにより、新王国時代第18王朝時代における「二柱のマアト」と「死者の審判」に関連する「無罪の宣言」は、共通して当時の来世思想を構成する新たな要素として組み込まれ、その後の来世思想の収斂に向かう変化の過程にあった可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型感染症の状況の改善により、本年度は当初に計画していたライデン大学近東研究所での研究滞在が実現可能となった。これにより、同研究機関所属の専門家との議論や、同研究機関が所蔵する資料の閲覧が可能となり、「二柱のマアト」に関連する有益な情報を収得し、研究を推し進めることができた。また、2022年4月でのAmerican Research Center in Egyptでの国際学会での発表を通して、新たな研究者間のネットワークを構築できた点は、今後の研究活動においても有益になると考える。 しかし、本年度の研究を通して、分析対象である「二柱のマアト」の実体解明につながる新王国時代の来世思想が、研究代表者の想定よりも深淵かつ複雑であり、その正しい理解に十分な注意が必要であることを認識した。そのため、個々の先行研究の整理に注力し、結果として第18王朝時代と一部の第19王朝時代の『死者の書』における「二柱のマアト」の分析に留まる状況にある。 その一方で、新王国時代の「無罪の宣言」の写本の分析を通して、写本ごとの同場面の相違点やその理由を新たに発見し、「二柱のマアト」の理解につながる当時の来世思想の研究を推し進めることができた。新たに解明した「無罪の宣言」の内容の不定性は、同時代において変化の段階にあった「二柱のマアト」の実態解明に新たな視点をもたらすものであり、新王国時代における「二柱のマアト」や、これらの神々が描写された『死者の書』のさらなる理解の深化が期待される。 以上の内容から、本年度の「二柱のマアト」及び『死者の書』の研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究は1500年にわたって利用された『死者の書」の最初期の段階である第18王朝時代の写本の分析に専心してきた。これにより、『死者の書』に描写される「二柱のマアト」の変遷について、関連する「無罪の宣言」の変化の傾向と比較しながら解明を進めることができた。『死者の書』は、続く新王国時代第19王朝・第20王朝に加え、第3中間期以降にも数多く利用されている。第18王朝時代の写本の分析によって明らかにされた冥界における「二柱のマアト」の役割は、時代を経て変化することが予想される。古代エジプト史の後半における「二柱のマアト」の実体解明するため、次年度以降の研究では、第19王朝時代及び、第20王朝時代の『死者の書』の写本及び関連資料を分析対象に定め、新王国時代における古代エジプト人の思想の変化の背景への理解を深めながら「二柱のマアト」の変遷を辿る予定である。個別の『死者の書』の写本の記述・図像分析の継続により、「二柱のマアト」の特徴や役割の詳細を段階的に蓄積し、古代エジプト史における「二柱のマアト」の全体像の再構築に大きく寄与することが期待される。また、前年度と同様に国際学会での研究発表や海外の専門家との議論を重ね、本研究課題のさらなる進展を目指す予定である。
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