研究課題/領域番号 |
21K13121
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 京都大学 (2023) 長崎大学 (2021-2022) |
研究代表者 |
岩本 佳子 京都大学, 文学研究科, 准教授 (90736779)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 遊牧民 / オスマン帝国 / トルコ共和国 / 定住化 / 言説 / エルトゥールル / ハミト期 |
研究開始時の研究の概要 |
オスマン朝の公文書史料、新聞、学術および一般雑誌などの定期刊行物の分析を、本研究の中心とする。現代トルコにおける遊牧民に対する表象やその活用の分析を補助線とし、17世紀末以降のオスマン朝における 1) 非文明人としての蔑視と伝統や勇武の保持者という、相反する遊牧民のイメージや表象の、オスマン朝における成立と展開を解明する 2) 遊牧民に対する表象と、定住化の強制や民兵の組織化といった実際の対遊牧民政策との関係を明らかにする。 その研究成果をさらに発展させ、 3) 遊牧民を「民族の伝統」として国民統合や観光資源として活用する現代トルコの状況がどのようにして生まれ、発展していったのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
17世紀末以降、オスマン朝とその後継国家であるトルコ共和国では、遊牧は「非文明的」とされ、その担い手である遊牧民は定住化政策の対象とされてきた。その一方で「イスラーム以前・中央アジア由来の民族の伝統」として、遊牧や遊牧文化をある種の「高貴な野蛮人」として称揚する言説も併存し、しばしば、史実とは異なる歴史や伝統の捏造すらなされてきた。 本研究では、トルコ共和国大統領府オスマン文書館に主に収蔵される公文書や、オスマン朝下もしくはトルコ共和国書記に発行された学術雑誌や官報といった定期刊行物などを主史料として、上記のような、現代トルコにおける遊牧民に対する一見相反するイメージや表象の成立とその変化、それらと遊牧民に対して取られた実際の政策、政治や文化運動との関係を解明することを目標に、現在の研究を進めている。史料収集と分析を進める中で、一定の仮説の立論とその検証を現在は主に行っており、研究成果を研究発表等の形式で公表している。 具体的には、1)非文明人としての蔑視と伝統や勇武の保持者という、相反する遊牧民のイメージや表象の、オスマン朝における成立と展開、2)遊牧民に対する表象と、定住化の強制や民兵の組織化といった実際の対遊牧民政策との関係、3)現代社会における遊牧文化やその歴史上の位置づけ、意味づけを探る上で、オスマン朝のアブデュルハミト2世治世(1876-1909年)にその萌芽や進展があるという仮説を立て、トルコ・イスタンブルの首相府オスマン文書館やアンカラの共和国文書館における一次史料調査に加えて、トルコ各地で夏季に開催される「遊牧民祭り」の現地調査など、多面的な角度からその検証を進めている。また、同時代史料の収集と分析も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は前年度と同様に、夏季に1ヶ月ほど、トルコ国内のイスタンブルの大統領府オスマン文書館(BOA)、イスラーム研究センター(ISAM)、アンカラの共和国文書館で当初予定していた現地調査を実施した。また、オスマン朝およびトルコ共和国期の定期刊行物の公開オンラインデジタルアーカイブなどを活用し、トルコ国内居住の研究協力者による情報提供や協力を得て、対面や現地に寄らない、遠隔地からの資料調査も実施した。 調査の結果、オスマン語(アラビア文字表記トルコ語)の公文書を、19-20世紀、特にアブデュルハミト2世期(r.1876-1909・以下ハミト期)のものを中心に引き続き40点以上調査し、その複写を取得した。現在はその精読と分析を進めている。2023年9月上旬にトルコ・ビレジク県ソウトで開催されたエルトゥールル記念祭を現地調査し、オスマン朝建国者の父祖とされるエルトゥールル廟の顕彰とカラケチリ族という遊牧民の一部族が、現代においても強いつながりを保っていること、そのことは歴史的な意義のみなならず、現代のトルコにおける民族政策を理解する上で一定の意義を有することを発見した。 本年度は研究成果のとりまとめと公表にも取りくみ、国内の学会で3点(内、2点は招待講演)、海外の学会(第4回テュルク、オスマン、トルコ学ヨーロッパ会議Turkologentag 2023 Vienna)で1点の口頭での研究発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度の夏季までに、トルコ・イスタンブルのオスマン文書館、イスラーム研究センター、アンカラの共和国文書館といった研究施設での史料調査を2週間程度、当初の計画通りに実施する。上記施設に収蔵される、1)対遊牧民の諸政策に関するオスマン朝公文書史料、2)遊牧民に関する記事や言説を収録した『オスマン歴史協会詳報』等のオスマン朝期および共和国期に発刊された新聞、学術および一般雑誌などの定期刊行物を収集し、その分析を進める。また、複写を取得した資料の精読、分析をさらに進め、ハミト期におけるエルトゥールル廟とカラケチリ族の調査・研究を深めていく。 研究成果をとりまとめ、年度内に、英語もしくは日本語での査読付研究論文や著書を発刊し、研究成果を公表する。現時点では、共著Syrian-Kurdish Intersections in the Ottoman Period (S. Stefan and Z. HajHasan eds.) University of Toronto Pressより“Waqf vs Miri Nomads: The Complicated Relations between the Kurdish Tribes in the 18th Century Ottoman Empire”の2024年度内の発刊が決定している。
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