研究課題/領域番号 |
21K13268
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分07020:経済学説および経済思想関連
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
北川 亘太 関西大学, 経済学部, 准教授 (20759922)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | J.R.コモンズ / レギュラシオン理論 / コンヴァンシオン理論 / ウィスコンシン州産業委員会 / ウィスコンシン産業委員会 / 実験的方式 / 公益事業規制 / プラグマティズム |
研究開始時の研究の概要 |
アメリカ制度経済学の創始者の一人J.R.コモンズ(1862-1945)は,不確実な状況下で諸集団はいかに「進む」べきかという規範的な論点で,制度再編の「実験的方式」を打ち出した。本研究は,(1)実験的方式において何がどのように実験的に修正されたのか,修正されるべきなのか,(2)適正な資本主義をいかに達成するかという彼の主題の中でこの実験的方式の役割・意義を位置づけなおし、再評価したい。
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研究実績の概要 |
本年度は、集団的な思考習慣の変容と公的機関の役割を明らかにした。ウィスコンシン州産業委員会による安全向上の取り組みを当初労使双方の大半が支持しなかった。なぜ、同委員会の取り組みは、全米のモデルとなるほど労使協調的で活発な安全運動に帰結したのか、つまり、なぜ、どのように、労使の思考習慣が変容したのか。本年度は、この問いを、ウィスコンシン州産業委員会文書にくわえ、産業委員会での自らの経験・役割を振り返った彼の発言が含まれる1919年合衆国産業委員会最終報告書・議会証言に基づいて検討した。彼の理論的記述では、委員会の役割が、労使の 「調停者」と規定されている。上記の資料を検討すると、この調停者は、民間企業の安全運動の主導的人物であり、労使を巻き込みながら、「徹底的な調査と議論」を実施したことが明らかになった。くわえて、資料を検討すると、産業委員会は、この調停者を中心的なオルガナイザーとして、安全会議の組織化、安全の広報、教育といったコミュニケーションを通じて諸集団の自発的な思考習慣の変容を促すことを重視していたことが明らかになった。その結果、産業委員会等の公的機関が、利害関係者の自発的な気づきと自己変革を促す役割を担ったこと、したがって実験的プロセスの困難な局面(思考習慣の修正)を突破するための制度的装置になっていたと示唆できた。ここで特に重要なことは、安全規則の合意に至るまでの、労使の代表を巻き込んだ、徹底的な調査と議論、および、 集団的なコミュニケーションの組織化を通じた思考習慣の変容の促進であった。本年度はこの研究を、報告論文としてまとめ、2024年1月にサンアントニオで開催されたアメリカの進化経済学会(AFEE)で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の資料検討から明らかになったことを、迅速に論文にまとめ、本年度中に、アメリカの進化経済学会で報告することができたため。その報告が、アメリカの制度論研究者たちから、コモンズの制度変化論の力点を資料を通じて明らかにしたことについて高い評価を受けたため。さらに、本年度は、コモンズの制度変化論とフランスのレギュラシオン理論とを比較した論文を公表することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、これまでに個別的に明らかにしてきたコモンズの実験的な営みに関する見解や力点を、倫理的意義をもつ営みとして再解釈する。本年度までに資料検討を通じて明らかにしてきた「実験のための社会経済システム」は、適正さの集団的な追求という彼の主題の中でどのように位置づけられるのか。適正さとは(諸)集団によって合意される暫定的な制度に体現される集団的・制度的倫理であるという遺稿の記述を踏まえると、制度経済学から読み取るべきことは、先行研究のように、(コモンズが設定したようにみえる)適正さの三条件を実験的方式という手段で今日の私たちも制度的に整えていくべきであるという若干矮小化された主張ではなく、物価・雇用安定、健康、安全といった公共諸目的(それ自体も実験的に変化し、あくまで三条件はその一部)を追い求めるために実験的方式をとり続けること自体が社会経済システムの倫理的状態であり、その状態を創造・維持・支援するための構造や制度的要素を今後も発展させるべきである、という主張であると解釈しうるのではないか。こうした解釈を、彼の記述から説得的に提示するために、本研究は、倫理と実験の論点を遺稿の編者の許容範囲よりも強く打ち出した形跡がみられる、遺稿の草稿“Investigational Economics”などから、集団的行動の第一義的・倫理的な目的は利害対立から暫定的な制度を(再)創造すること自体であり、その方式は実験的であるべきだ、といったことが理解できる記述を見つけたい。
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