研究課題/領域番号 |
21K13271
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分07030:経済統計関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
藤森 洸 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (50822110)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 高次元時系列 / スパース推定 / 整数値時系列 / Hawkes 過程 / 高頻度データ / 点過程 / 高次元統計学 |
研究開始時の研究の概要 |
高頻度観測データによる金融データ解析のモデリングに用いられる確率過程として、多次元の点過程が注目を集めている。特にHawkes過程は過去のイベントから伝播を受けて発生するイベントを表現する確率過程として脚光を集め、データ分析への応用に繋がる基礎研究が近年精力的に進められている。本研究では先行研究で一次元の場合に理論的証明が与えられているHawkes過程の離散近似に関する結果を多次元のケースへの拡張を行う。また、高次元の場合における推定量を構成し、励起構造のスパース性を検証することで高次元Hawkes 過程の効率的な推定量を計算する手法を提案し、実際の金融データ解析に応用していく。
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研究実績の概要 |
前年度に改訂を行った高次元定常時系列に対するスパース主成分分析手法に関する論文を投稿し、採択された。この研究成果で得られた高次元時系列に対するLasso型の推定手法は、本研究課題の対象であるHawkes 過程の離散近似で得られる整数値時系列のパラメータ推定においても適用することができる。さらに、行列値時系列への拡張を目指し、長期記憶性を持つ行列値時系列に対する経験尤度を用いた推定量、検定統計量の漸近分布を導出した。ここで得られた研究成果は、国際会議にて発表している。 また、整数値自己回帰モデルに対する推定問題の研究にも前年度に引き続き取り組み。特に、整数値自己回帰モデルを例に含むエルゴード的な時系列モデルに対するDantzig selector 型の推定量の漸近的性質を数学的に導出し、研究成果を国内外の学会にて講演し、学術雑誌に投稿した。ここでは一次元Hawkes 過程の離散近似で得られる整数値時系列のオーダー選択を応用例に含む形で議論することができているが、多次元への拡張やLasso型推定量をはじめとする他の手法を用いた推定手法への拡張も可能であると予想している。 更に、整数値自己回帰モデルを構成する確率変数列の分布に関する考察を行い、検定問題に関する論文を執筆した。得られた研究成果はプレプリントとしてarXivにて発表し、学術雑誌に投稿中である。本研究では一次元を対象としているが、先述したスパース推定に関わる論文で得られた成果と組み合わせることで、より広範なモデルへの適用が期待される。Hawkes 過程はポアソン分布を基盤として構成されるモデルではあるが、この研究成果を用いて、データをHawkes 過程を用いてモデリングすることの是非を問うことができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
定常Hawkes過程の整数値自己回帰モデルによる近似については、その理論証明を終えている。更に、高次元整数値自己回帰モデルにおける係数行列の推定に、スパースかつ低ランクな推定手法を適用した際に得られる推定量の誤差評価についても、理論的な証明を一通り記述した。一方で、数値実験、実データ解析や数値実験を未だ行うことができていない。また、推定手法を実際に適用するために必要となる初期推定に関する考察、チューニングパラメータをいかに選択するかといった、細かい問題は未だ残されている。初期推定については現在投稿中の一次元のHawkes過程を例に含む設定で議論を行った研究成果を参考にすることで、一致推定量が得られると予想しているが、更なるブラッシュアップが必要となる。更に、非定常な設定における議論は、未解決のままである。 また、行列値時系列に対する研究を、高次元・スパースな設定に拡張することで、Hawkes 過程の自己励起構造のグラフ表現の推定に応用する研究についても、現在進行中である。次元が固定されている状況では一定の成果は得られているため、罰則項を用いた経験尤度を考案することで、成果が得られる可能性は十分高いと考えているが、上述した問題と同様、いくつか解決すべき問題が残っている。 以上のように、定常なケースでは理論的な課題の大部分は解決しつつあるが、解決すべき問題が残されていること、非定常なケースについての研究については十分な進捗、成果を上げられていないことから、進捗状況を「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、定常な場合のHawkes過程に対するスパースな推定問題については、初期推定、チューニングパラメータの選択、数値実験や実データ解析といった残された課題を完了する。これらの課題は、定常な高次元時系列、確率過程のスパース推定に関連する先行研究および、これまでの自身の研究成果を参考にすることで、十分解決可能であると考えている。 更に、上述の成果を局所定常なケースに拡張する問題にも並行して取り組む。高次元の設定を考察する上で重要となる集中不等式は非定常なケースでも適用可能であるため、局所定常な整数値時系列モデルであっても、定常なケースと同様の手法を適用して得られる推定量の誤差評価を行うことができる可能性は高い。先行研究でも局所定常なHawkes過程及び整数値時系列に関する議論は十分になされていないが、一般の点過程や時系列モデルにおける議論を参考に、近似の妥当性に関する考察も引き続き行っていく。 また、本年度までに得られた、行列値時系列に関連する研究成果を整数値時系列、Hawkes過程のグラフ表現の推定に応用する問題の考察や、モデルを構成する確率変数列の分布の検定問題との融合を目指し、研究を進めていく。
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