研究課題/領域番号 |
21K13275
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分07030:経済統計関連
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研究機関 | 一橋大学 (2022-2023) 統計数理研究所 (2021) |
研究代表者 |
小池 孝明 一橋大学, 大学院経済学研究科, 講師 (80898742)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 裾従属性 / 従属性 / 多変量解析 / 接合関数 / 従属性尺度 / 期待ショートフォール / Value-at-Risk / バックテスト / 相関係数 / 定量的リスク管理 / 資本分配 |
研究開始時の研究の概要 |
銀行や保険会社などの金融機関が抱えるリスクは本質的に多次元である.多次元リスクの間の関連性を理解し,それらが金融機関に及ぼす影響を分析することは,2008年の世界金融危機から学ぶことができるように重要な課題である. 本研究の目的は,資本分配および従属性の観点から,図示や直感的理解の難しい多次元リスクに関する知見を深め,金融機関のより安定したリスク管理手法を発展させることである. より具体的には,分配資本の計算手法の確立や従属性と分配資本の関係の分析,モデルの不確実性に影響されにくい分配資本の導出,および従属性を定量化する尺度の比較・評価を行う.
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研究実績の概要 |
2023年度は, 主に (i) 非対称裾従属性のモデリング,および (ii) リスク量の予測とバックテスト に関する研究を行ったので,その概要を述べる. (i) 複数の確率変数間の従属性モデリングは様々な分野で重要である.接合関数(コピュラ)は複数の変数の順位間の同時分布であり,主に元の変数の同時分布から周辺分布を切り離し従属性のみを扱うために用いられる.接合関数として正規,t接合関数を含む楕円型接合関数はよく知られ,金融実務でも用いられている.しかしながら,これらの接合関数は極端に大きな値を取る値同士の従属性(上裾従属性)と極端に小さな値を取る値同士の従属性(下裾従属性)が等しいという対称性を仮定しており,この点で従属性の表現力に限界がある.これらが異なることは実証研究でも明らかにされており,これらの非対称性を取り入れるためのskew楕円型接合関数への拡張が知られている.本研究ではその中でも取り上げられることが多いskew正規接合関数について,その上下の裾従属性の非対称性を調べた. (ii) 時間変化するリスクの予測および予測量の診断は重要な課題である.金融リスク管理の文脈では,損失が実現した後のリスクモデルの事後評価はバックテストと呼ばれる.本研究では,リスク量を定量化する尺度として広く用いられているValue-at-Risk (VaR)とExpected Shortfall (ES)を同時に推定するモデルについて,株式の取引時間外のリターンの情報がモデルに取り入れられたときの,VaR, ESの予測精度の上昇を様々なバックテスト法で検証した. これらの研究結果は,より精緻なリスクモデリングおよびより安定した金融リスク管理を行う上で有益である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度にも取り組んでいた各研究課題および令和5年度に新たに始めた研究課題について,一定の成果を発表することができた. 家庭の事情により対面での交流の機会が十分に得られていない点はあるが,複数の新規研究計画が進行中であり,総合的に見て現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は (a) リスク寄与度の推定と予測およびモデル評価 および (b) 金融リスク管理のための従属性解析の深化 について引き続き研究を行っていく. 以下その具体的な方策を述べる. (a) 期待ショートフォール(ES)に基づくリスク寄与度の予測モデルおよびバックテスト法の解析:複数の構成要素からなるポートフォリオや経済モデルに対し,その総リスク量は構成要素のリスクの和の確率変数をリスク尺度で評価することで得られる.この合算リスク量を合算リスクの構成要素へ分解するのがリスク分配である. 合算リスク量を各構成要素のエクスポージャーで微分し,現在のエクスポージャーで評価した微分係数はリスク寄与度と呼ばれ,この量がリスク分配にも用いられる.リスク寄与度の予測モデルやバックテスト法はほとんど知られていないが,この量の算出は将来の合算リスクを削減し,複数のリスクの保有バランスを最適化する上で重要である.本研究課題では特に近年注目されているESに対し,リスク寄与度の予測モデルやバックテスト法の解析を検討している. (b) 裾因果性解析と多変量裾従属性モデリングの深化: 標準的に用いられている従属性モデルの多くは,一方の変数が他方の変数に与える影響の非対称性を表現できない.このような方向性を持つ従属性は,相関係数では表せない因果性と関係しており,近年注目が高まっている.本研究では,金融危機やストレス事象の分析に重要である裾での変数間の予測力や因果性の定量化を検討する.また裾従属性解析において,裾同時確率の減衰速度(裾次数と呼ぶ)は一定という仮定がしばしばおかれるが,この仮定は必ずしも適切でないと考えられる.裾次数の誤特定はリスク量に与える影響が大きいと考えられ,リスク管理において重要である.本研究課題では,複数の裾での裾次数を柔軟に表現できるモデルの開発を検討する.
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