研究課題/領域番号 |
21K13382
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分07090:商学関連
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
李 玲 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (80724244)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | 原産国プライド / 愛郷心 / 生まれ故郷 / 国潮ブランド / 消費者行動 / グローバル・ブランド / パトリオティズム / ナショナリズム / 自愛心 / 早期愛着 / 寛容 / 中国 / ブランド消費 / マズローの欲求階層説 / 中国人消費者 / 愛国主義教育 |
研究開始時の研究の概要 |
消費者行動研究において、パトリオティズム(愛国主義)に着目する研究はそれほど蓄積されていないようである。中国の近代化プロセスは国土の被瓜分を伴う屈辱史を物語った。中国人の愛国意識は、このような生存危機から逃れるため国民が一致団結して求心力を求める中で萌芽し、以降、愛国主義運動や愛国教育によって強化されてきた。このように、中国的パトリオティズムには独自の生成文脈を有している。がゆえに、中国人消費者の行動様式を的確に議論するには、中国的パトリオティズム概念の理解が重要となる。そこで本研究は、中国本土のパトリオティズム概念について検討し、消費者の購買行動に与える影響について検証する。
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研究実績の概要 |
パトリオティズムはもともと生まれ故郷への愛着を意味する言葉であり、人間の心を動かす重要な感情であるがゆえに、人々の行動に影響を与える要因であると推察される。国際マーケティング分野では、生まれ故郷への愛着にはまだ注目されていないようである。本年度の研究実績の一つは、生まれ故郷に対する思いの構造、およびそれが中国人消費者の国内外ブランド消費に与える影響を明らかにしたことである。中国人消費者が国潮ブランドに誇りを持って選好する一方で、外国ブランドの感性的価値である顕示的価値も評価するという消費傾向が明らかになった。 フィールドワークを通して、中国市場の環境変化、特にZ世代(1995年-2010年生まれ)による国潮ブランド消費へのパラダイムシフトが確認された。これは国家の経済や産業の高度化や、文化、テクノロジー、ブランドに対する自信やプライドによって駆り立てられるとされる。それを受け、筆者は「原産国プライド」という概念を提唱した。新エネルギー車分野に焦点をあて、原産国プライドの影響を実証的に分析した結果、国産ブランドに対するポジティブな効果が確認された一方で、米国ブランドに対するネガティブな影響は確認されなかった。 国家の経済やテクノロジーの進歩は原産国イメージの向上を意味する。原産国イメージがブランド身分表示(顕示)力と原産国プライドを媒介して中国人消費者のグローバル・ブランド消費にどのような影響を与えるのか実証的に解明した。スマートフォン分野を研究対象とした分析結果では、ブランドの身分表示力に関しては依然として米国のグローバル・ブランドが強いと確認された。一方で、原産国プライドは、中国のグローバル・ブランドの購買に正の影響を与えた一方で、米国のグローバル・ブランドに負の影響を与えたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題の目的は、パトリオティズムの構造を明らかにし、それが中国人消費者の国内外のブランド消費に与える影響を明確にすることである。2023年度にはフィールドワークを実施し、生まれ故郷を表すパトリオティズムの構造とその効果についての聞き取り調査を行い、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチに基づいて分析した結果を論文にまとめた。 また、フィールドワークを通じて、中国の市場環境の変化とそれに伴う消費者行動の新潮流、すなわち国潮ブランド消費行動を確認した。これは、中国の経済やテクノロジーの進歩、文化、ブランド力に対する自信やプライドによって駆り立てられる消費行動である。このプライドは、ナショナルプライドの経済的側面を強調し、ナショナル・アイデンティティの肯定的側面であり、パトリオティズムと共存する概念であるとされる。この概念は、中国人消費者の行動を理解するための鍵となるものであり、その理論的基礎は、感情心理学のプライド研究、ナショナル・アイデンティティ研究、ナショナルプライド研究に求められる。筆者は中国市場の環境要因を総合的に勘案しつつ、これらの理論に依拠して原産国プライドという概念を提唱し、同概念の測定尺度の開発とその効果について実証的に検討した。さらに、実証研究の結果をもとに、理論と実践の両面からのインプリケーションを検討し、一定の貢献を果たした。 一方で、新型コロナウィルスのパンデミックや国際情勢の不安定などの要因により、海外でのフィールドワークが予定よりも大幅に遅れた。そのため、研究をまとめるのに時間がかかり、査読中の論文を含めた成果の公表が次年度にずれ込んでいる。また、原産国プライドの研究に注力した一方で、パトリオティズムと早期愛着理論との関連性に関する研究はまだ進行中である。したがって、今年度の進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、引き続き現地でフィールドワークを実施し、ローカル市場に埋め込まれたパトリオティズム関連の市場や消費者の特性、そして現地の消費文化について洞察する。次に、パトリオティズムと類似のメカニズムを有するとされる早期愛着理論について考察し、それが生まれ故郷に対する愛着との関連性や、国内外のブランド消費への影響について、理論研究および実証研究の両面から行う。さらに、消費者行動に関する理論研究を包括的にレビューし、先行研究の成果を総括した上で、国際マーケティングの視点から消費者行動に関する理論モデルの統合を試みる。最後に、研究全期間を振り返り、研究成果を総括し、残された課題について精緻に検討を重ね、新たな発展方向性を示唆する。
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