研究課題/領域番号 |
21K13539
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
ガラーウィンジ山本 香 上智大学, 総合人間科学部, 研究員 (70804053)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | シリア難民 / 難民教育 / ヨルダン / 恒久的解決 / 第一次庇護国 / 公教育統合 / 難民状態の恒久的解決 / シリア / 紛争 / 教育 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の難民教育は、ホスト国の公教育に難民の子どもを統合することを基本指針としてきたが、これは本国帰還という難民状態の恒久的解決における優先策とは逆行する性質を孕む。この矛盾は、難民側の文脈よりも支援者の論理が優先された結果であり、必ずしも多様な難民生活を長期的に支える教育のあり方ではない。そこで本研究は、シリア難民の事例をもとに、難民状態の恒久的解決に向けた難民教育のあり方を、難民の視点から検証する。シリア難民の多くは都市難民として支援の枠組みの外で生活しながら、高い教育熱を維持している。彼らに着目することで、難民による教育選択・受容行動と、その背景にある難民の能動的主体としての側面に迫る。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、第一次庇護国における難民状態の恒久的解決に向けた難民への教育提供のあり方を、シリア難民の視点から検討することである。2年目にあたる本年度は、第二段階として「シリア難民がいかなる恒久的解決を展望し、いかなる教育をいかに受容しているか」という問いに部分的に取り組むとともに、第一段階の問いであった「いかなる環境のもとでシリア難民の恒久的解決と教育に関する意思が形成されているか」についても引き続き検証した。 事例としたヨルダンでは、就学しているシリア難民の子どもの過半数が二部制学校の午後シフトで学んでいる。シリア難民を多く受け入れている学校では、従来からあった二部制の午前をヨルダン人生徒が学ぶヨルダンシフト、午後をシリア難民生徒のシリアシフトとし、国籍別に生徒を区分している。シリアシフトでは主に臨時雇用の教員が指導を行っており、既存研究において教育の質の低さが指摘されている。本研究で聞き取り調査を実施したシリア難民間でも、シリアシフトは教育の質が低いという認識が広く共有されていた。それゆえ、彼らの多くがシリアへの帰還を長期的に展望する一方で、ヨルダン人とともに学習する機会を望む保護者が多かった。ヨルダン人と同じクラスで学ぶ子どもの中には、教員からの暴言や刃物を用いた級友からの脅迫など、深刻な差別を経験した者もいる。それでもなお、聞き取り対象者のなかにシリアシフトを希望する保護者はいなかった。彼らにとっては、在学中に危険に晒されるとしても、より質の高い教育を受容することがより重要であり、そこから得られるであろう長期的な教育の役割に強い期待を寄せている。ある母親は「私の未来は私の子どもたち。子どもたちの人生の基盤は教育が作る」と言った。第一次庇護国に留まるしかなく、難民状態の恒久的解決策が膠着した現状に対して、彼らは子どもの教育をとおして希望を見出そうとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は本年度に現地調査を実施し一次資料を収集する予定だったが、出産および育児に伴い現地渡航が叶わなかったため、二次資料を用いた文献レビューや共同論文の執筆(投稿済み)が主な活動となった。それゆえ、本年度に一次資料を用いて明らかにする予定だった「シリア難民が展望する恒久的解決」と「教育受容の現状」の2点どちらについても二次資料をもとに検証した。しかし、とくに後者については質的資料が不足しており、シリア難民の視点から第一次庇護国における教育受容を明らかにすることが難しく、部分的な理解に留まった。そのため現在の進捗状況としては「やや遅れている」と言わざるを得ないが、今後の研究活動によって挽回は可能である。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で記述したとおり、本年度は出産および育児のため一次資料の収集が叶わず研究の進捗がやや遅れた。そのため、次年度も以下2点の問いに取り組む。 (1)シリア難民がいかなる恒久的解決を展望し、いかなる教育をいかに受容しているか。 (2)シリア難民が展望する恒久的解決に向けて、教育はいかなる影響を及ぼしているか。 次年度は現地調査を再開し、本年度に収集した二次資料および文献レビューの結果から部分的に明らかになった(1)の問いの検証を進めながら、並行して(2)についても検討する。また、本年度末(2023年2月)に発生したトルコ・シリア地震も、シリア難民の動向に影響を及ぼす新たな要因になっていることを踏まえて調査を進める必要がある。そのため、「いかなる環境のもとでシリア難民の恒久的解決と教育に関する意思が形成されているか」という初期の問いにも立ち返りながら包括的に研究課題に取り組んでいく。 これらの成果は学会発表等で共有するとともに、国際学術誌への投稿論文の執筆に繋げる予定である。
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