研究課題/領域番号 |
21K13663
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分09080:科学教育関連
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
松岡 雅忠 福岡大学, 理学部, 准教授 (90880394)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 化学実験 / マイクロスケール実験 / 紙 / 固定 / 触媒 |
研究開始時の研究の概要 |
生徒の印象に残るマイクロスケール化学実験を通じて,化合物の性質と日常生活での用途に触れることは,学習事項の定着に有効であるだけでなく,持続可能な社会を構成する一員を育成することにつながると考えられる。 本研究は,紙を「試薬を固定し,化学反応を進行させる場」として,また,その灰を「固体の塩基」とみなす,新規な化学実験プログラムの開発を目的とする。その一環として,油脂を紙に吸収させ,酸化を加速させることによる油脂の空気酸化の教材化や,金属塩をしみこませたろ紙を用いた,化学反応の視覚化,エステルの合成と加水分解などを検討する。
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研究実績の概要 |
「試薬を固定する場としての紙類」をテーマに,開発したマイクロスケール実験群を含む学習プログラムの開発は,指導者にとっては安全に実施でき,学習者にとっては統一感を与える,意欲的な研究テーマとなりうる。 本年度(2年目)は,「合成着色料による布の染色と漂白を観察する化学実験教材の開発」の研究を実施した。まず,日本で使用が許可されている合成着色料12種類の漂白特性を調査し,塩素系漂白剤で容易に漂白される3種類を見出した。これら合成着色料を用い,絹布への染色,塩素系漂白剤による漂白を観察させる理科実験教材を開発し,授業実践を行った。さらに,塩素系漂白剤による合成着色料の逐次的分解を含む化学マジックを考案し,博物館等で来場者に披露した。 また,「薄層クロマトグラフィーを利用してドット文字を描く実験教材」の開発も行った。複数のフェノール類,芳香族アミンからアゾ化合物を合成し,ライブラリを作成した。そして,薄層クロマトグラフィー上に0~9,A~Zの文字を描くために必要な4種類のアゾ化合物を選択した。この成果をもとに,アゾ化合物を合成し(1日目),ドット文字を描く(2日目)教材を開発した。 このほか,アンモニアソーダ法に関する教材開発も実施した。塩化ナトリウム水溶液に炭酸水素アンモニウムを加えると吸熱反応が進行するとともに,溶解度の小さい炭酸水素ナトリウムが析出する。これは,溶液中でイオンの交換が進行したとみなすことができる。反応条件や純度を調査し,アンモニアソーダ法の主要な反応を理解させる教材へと発展させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,「紙」と「灰」という,人類が古くから利用してきた素材の特性を生かし,「高等学校の現場で活用できる教材づくり」へと導く。高等学校化学の授業実践では色や香りの変化などわかりやすい情報が重要となるが,教材研究にあたっては比色分析のほか,種々の分析装置を利用して,どのような化学反応が進行しているか,経時変化を定量的に追跡する必要がある。研究を推進するにあたり,古典的な定量分析実験,および先端の機器分析を実施できる環境を構築できた。 1年目は油脂の酸化と遷移金属塩の加水分解,2年目は繊維の染色と漂白,薄層クロマトグラフィー,アンモニアソーダ法の改良のように,当初設定していた目標の達成に向けて順調進展していると考えられる。 また,本年度の成果は主に,「総当たりによって,適切な基質を探索する」手法で得られたものであり,想定していなかった発見によって研究が大きく進展する場面があった。したがって,「紙への固定」を超えて,対象となる化合物の簡便な合成,水質の浄化を観察させる教材としてさらに発展させることができる余地を有しており,調査を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,従来「反応の場」として注目されることの少なかった紙類に着目し,合成着色料による染色と漂白の教材化や,薄層クロマトグラフィーにより数字やアルファベットを表現する手法を検討し,所定の成果を得た。 今後は,酸化剤を染み込ませたろ紙を利用した種々の酸化反応,あるいは,燃焼後の灰成分を塩基として用い,酢酸エステル系香料の加水分解に伴う香りの変化を体験させるなど,紙および草木灰を反応場として積極的に活用する化学実験プログラムの開発を継続して推進する。
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