研究実績の概要 |
2023年度では,安全性の知覚が共感性と心拍変動の関係において調整効果を持つか否か,心拍活動測定を用いた実験により検討した。先行研究から,安全性の知覚は心拍変動と正の相関関係にあること(Brosschot et al., 2017),心拍変動と共感性のうち他者への思いやりをさす「共感的関心」が逆U字関係にあることが示唆されている(Miller et al., 2017)。これらの知見を鑑みて,本研究では3つの仮説を検証した。1つめは,安全性の知覚と心拍変動が正の相関にあるという仮説である。2つめは,安全性の知覚が低い人々では心拍変動と共感的関心が正の相関関係にあるという仮説である。3つめは,安全性の知覚が高い人々では心拍変動と共感的関心が負の相関関係にあるという仮説である。 本研究の分析対象者は46名だった。参加者は共感性を測定する対人反応性指標(Davis, 1980; 日道, 2017)や昨年度この研究プロジェクトで作成した安全性の知覚尺度(日道, 印刷中)に回答し,続いて安静時の心拍活動を測定された。仮説1について,安全性の知覚尺度得点と心拍変動の間に負の相関関係が示され,仮説とは対照的な結果であった。さらに,仮説2と仮説3について,対人反応性指標の共感的関心尺度得点と心拍変動の間に有意な相関はみられなかった。これらの結果は,探索的な分析を行っても変わらなかった。本実験の結果から,安全性の知覚は共感性と心拍変動の関係において調整効果を持たないことが示された。一方で,安全性の知覚と心拍変動の相関関係が先行研究で示唆された方向と異なっていたため,これらの関係についてはより詳細に検討していく必要がある。 今年度は,昨年度実施した安全性の知覚尺度の作成についての論文を執筆し,その査読対応も行った。その結果,心理学研究誌にて掲載が決定した。
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