研究課題/領域番号 |
21K13745
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中山 遼平 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (00817489)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 運動外挿 / シータ波 / 視覚意識 / 復号化 / 微小眼球運動 / 瞳孔径 / 予測処理 / double-drift illusion / 運動残効 / 視野間転移 / 注意トラッキング / 神経メカニズム |
研究開始時の研究の概要 |
視覚認知において対象の存在が意識に上るかどうかは最も基礎的な問題である.しかし,それが視覚系の重要な動作原理である過去の情報にもとづく現在の予測とどのような関係にあるかは従来あまり検討されてこなかった.本研究では,運動物体知覚が外挿される新現象を利用し,動的情報の予測処理がどのように知覚意識の成立を決定づけているかを明らかにする.厳密に統制された心理学・生理学実験の知見をもとに,予測と予測誤差の再帰的情報処理を基盤とする意識成立の計算理論を構築することを目指す.
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研究実績の概要 |
運動物体の明瞭な見えを支えている神経処理過程を理解するため,運動物体の消失位置が運動方向にずれて知覚される錯覚(運動外挿)の脳波神経相関について検討した.この外挿は動的ノイズから成る背景上で生じ,その外挿量は前頭頂の電極における後期陰性電位と相関を示した(中山ら, 日本視覚学会2022年夏季大会).周波数次元における解析では,外挿量は運動消失以前のシータ波の位相に依存し,さらに消失後のシータ波のパワーやコヒーレンスと正の相関を示した(中山ら, 日本視覚学会2023年冬季大会).視覚運動情報にもとづく予測的位置表現やその産物としての運動外挿がシータ波と関連することを見出している.これらの結果を,前年度に実施した心理物理学実験の結果と合わせて,原著論文としてまとめ,投稿準備中である(Nakayama et al., in preparation).また次年度の国際視覚学会に投稿し,口頭発表に採択された(Nakayama et al., 2023). 意識的知覚の成立過程を多面的に理解するため,身体情報との関係についても検討した.機械学習を用いて,微小眼球運動及び瞳孔径を特徴量として,視覚意識の成否とその判断の確信度をそれぞれ有意な精度で復号化できることを示した.視覚意識と身体情報の関連,特徴量の時間帯や個人差などに関する考察を加えた.行動や言語による報告を要しない視覚意識の計測技術の開発は,将来的に意識の成立に必要十分な神経活動を捉える試みに資すると考えられる.上記の結果をまとめて国際誌に投稿し,報告者を筆頭著者とする原著論文として公刊された(Nakayama et al., 2022).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動外挿の神経相関を調べるため,心理物理学実験と同時に脳波を測定した.調整法により試行ごとに外挿量を推定し,脳波指標との被験者内(試行間)変動の関連を調べた.外挿量は,運動消失以前の数百ミリ秒間における頭頂電極のシータ波(3-6 Hz)位相と相関を示した.また,外挿量が大きい試行では,運動消失後の数百ミリ秒間における前頭頂電極のシータ波のパワーや電極間同期(コヒーレンス)が増大した.さらに,外挿量が大きい試行では,前頭頂電極で後期陰性電位が生じた.視覚運動情報にもとづく予測的位置表現がシータ波に同期して形成されること,その産物として運動外挿が生成されるときシータ神経活動をともなうことが示唆された.さらに,前年度に実施した心理物理学実験の結果から,予測的位置表現が運動物体の明瞭な見えに貢献している可能性があり,上述の後期陰性電位はこの予測過程が運動消失(予測誤差)の検出により停止される過程を反映している可能性がある. 視覚意識と身体情報の関係を調べるため,共同研究者が実施した心理物理学実験及び眼球運動測定のデータにもとづく分析をおこなった.順応誘発盲における対象の可視不可視の判断について,微小眼球運動及び瞳孔径を特徴量とするスパースロジスティック回帰により分類できることを示した.可視不可視の判断に関する確信度についても同様に分類できた.交差検証により得られた分類の精度及び感度について並べ替え検定により有意性を確認した.視覚意識と身体情報の関連が示唆されたものの,特徴や時間帯ごとの特徴量の重みは個人間で違いがみられた. 以上のように,研究計画時に提案した脳機能計測を実施した.また,研究テーマの中心となる疑問に異なる側面からアプローチするためデータ駆動型の分析をおこなった.これらの研究成果について,国際学術誌や学会で積極的に発表した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに引き続き,運動外挿の錯覚を利用して,意識的知覚における予測処理の役割について検討する.運動物体に与えられた加減速と錯視量の逆相関分析から予測の時間窓を求めることや,観察者の定位にともなう能動的予測との関連を調べることを計画している. データ駆動型のアプローチとして,本年度実施した心理物理学実験及び脳波測定のデータにもとづき,脳波指標を特徴量として運動外挿の復号化を試みる.データの一部を用いて,分類クラス,特徴空間(センサ空間かソース空間か)や特徴次元(電位次元か周波数次元か)などのパラメータを最適化し,残りのデータで交差検証をおこなう.これらを通じて深い洞察が得られる場合には,fMRI計測により責任中枢を調べることも視野に入れている. 以上の研究を通して得られた実験知見をもとに,予測符号化理論や自由エネルギー原理など既存のセオリー群との関連を考察しつつ,意識的知覚の成立過程への理解を深める.その理論的帰結から予測される新たな仮説や関連する疑問にも取り組む予定である.
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