研究課題/領域番号 |
21K13852
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 (2022) 東京大学 (2021) |
研究代表者 |
池田 達彦 国立研究開発法人理化学研究所, 量子コンピュータ研究センター, 研究員 (60780583)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 周期駆動系 / 高強度レーザー / フロケ状態 / 量子多体系 / 開放量子系 / 非平衡定常状態 / 量子スピン系 / 周期駆動 / 散逸 |
研究開始時の研究の概要 |
レーザーなどにより物理系を時間周期的に駆動し、物理系の有用な性質や機能性を人工的に作り出す「フロケ・エンジニアリング」が注目されている。本研究は、固体物質などで避けられない散逸の存在によってフロケ・エンジニアリングがどう影響を受けるかを理論的に研究する。その中で、散逸があって初めて可能になる新種のエンジニアリングを見出し、実験で実現する方法の理論提案を目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は、現実の固体物質に高強度レーザーを照射した際に形成され運動するフロケ状態について理論的に研究を行なった。フロケ状態は完全に周期的で永続する外場のもとでかつ散逸が全くない理想的な場合には見通しの良い理論が存在する。しかし、実験で用いられるパルスレーザーは時間的周期性を完全には持たず、また固体中の電子の運動は散逸の影響を受けるため、フロケ状態のダイナミクスをどのように解釈・測定するかは十分に理解されていない。 本年度の研究内容の1つとして、パルスレーザー中のフロケ状態のダイナミクス、特にそのLaudau-Zener型状態遷移の定量的理論を構築した。幅の広いパルスレーザー中のダイナミクスは、パルス包絡線に沿ったフロケ状態の断熱遷移とみなせるが、2つの擬エネルギーが近付き準位反発を起こす近傍においては非自明な状態混合が起こる。この混合を定量的に正しく記述する転送行列を構築し、これによりパルスレーザー中の複雑なダイナミクスをフロケ状態を基準に定量的に正しく把握することが可能になった。 研究内容の2つ目は、このようなフロケ状態の断熱的・非断熱的ダイナミクスの固体物質における観測である。基底状態と励起子準位が実効的な2準位系をなすWSe2において、中赤外パルスレーザーによる高調波測定が行われ、励起子準位のブロードニングなど通常と異なる特徴が見出された。これはパルス包絡線に沿って時間的変化するフロケ準位として解釈できることが示された。間接的な証拠ではあるが、固体物質中で形成され運動するフロケ状態の痕跡を捉えた先駆的で重要な成果と言える。 研究内容の3つ目は、ディラック半金属候補物質Cd3As2の中赤外パルスレーザー照射中に生じる非平衡電気伝導度の分散型変化である。現象論的な散逸を考慮に入れた微視的モデルによる解析を行い、フロケ理論に基づく解釈を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に遂行する予定だった多体系のGKSL方程式の数値計算について、プログラムは構築したものの大規模に計算を実行し解析を行うには至らなかった。その代わり、フロケ状態のダイナミクスについて理論的な進展があり論文等で成果を発表するに至った。さらにこれに関しては実験との接点でさらなる進展があったのは当初予期していなかった大きな成果であった。これら複数の方向性の進捗状況を総合して、全体としてはおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度進める予定だった多体系のGKSL方程式のシミュレーションを大規模に実行して多体系の非平衡定常状態について研究を進める。ただし実験との比較という点においては少数自由度系のほうが実現可能性が高いため、これも視野に入れつつ柔軟に進める。
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