研究課題/領域番号 |
21K13857
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 九州大学 (2022) 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (2021) |
研究代表者 |
小松 尚登 九州大学, 総合理工学研究院, 学術研究員 (50812963)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 平均場理論 / 有限サイズ効果 / 全結合模型 / 磁性 / 相転移 / 摩擦 / 非平衡状態 |
研究開始時の研究の概要 |
磁気摩擦、つまり磁性体間の磁気相互作用に起因する摩擦の統計力学模型は、摩擦の微視的メカニズムの研究の一環として近年研究されている。本研究では、それらの模型における摩擦力と表面の相対速度との関係などの特性を調べ、通常の固体表面間の摩擦との類似点、相違点などを考察することで、摩擦という現象全般に対する理解を深め、加えてこのような格子同士が相対運動している磁性体において出現する磁気構造に関する非平衡統計力学的な側面からの理解も目指すものである。
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研究実績の概要 |
自身の過去の研究において取り扱った磁気摩擦の模型において、緩和時間がシステムサイズと共に発散するため、有限サイズ系と熱力学極限での振る舞いが全く異なって見えることが確認されていた。しかし、過去の研究の時点では、平均場理論を用いて熱力学極限の振る舞いの記述をすることは出来ていた一方で、有限サイズ系の考察は理論的な取り扱いの困難さから難航していた。 今年度の研究においては、過去に扱った統計力学模型を大幅に簡略化した模型を対象とすることで、有限サイズ系の振る舞いの本質的な部分を理論と数値シミュレーションの両面から考察することを試みた。一般に摩擦の微視的な過程においてはstick状態とslip状態、つまり格子が接触面の作るポテンシャルに捕らわれている状態と、そうならずに格子が運動する状態の区別が重要であることが知られている。本研究で考察した模型においては、パラメータ次第でこれら二つの状態が別個の準安定状態として分離する場合と、そうした分離が発生しない場合の二通りの状況が存在することが判明した。こうした状況の差異は、摩擦力Fと速度vの関係も大幅に変化させる。 また、この模型に関して、slip状態の格子の速度が極めて速い極限におけるF-v関係を近似理論的に考察することも行い、その近似の範囲内において当初の期待と異なりF-v関係がDieterich-Ruina則から僅かにずれていることを確認した。 この他、前年度に全結合模型に関して行った有限サイズ効果の摂動論的な取り扱いの方法の研究を、相互作用がべき減衰する種の長距離相互作用系に拡張することにも成功した。この研究は将来的に摩擦の理論的模型を考察する際に応用できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、今年度取り扱った模型は大幅に簡略化されたものである。しかし、この模型において観察されたstick状態とslip状態の分離などの振る舞いと、その知見を元にした摩擦力Fと速度vの関係の考察は、固体間の接触部分の運動が単純な熱的活性化過程では説明できない例が存在することを示唆する結果となった。 そのため今年度の研究成果は、磁性体か通常の固体表面かを問わず、摩擦の微視的理論に関する考察を更に進める際に参考になるものであると考えられ、最終年度の研究に繋げていく上で重要なものであると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究結果から、摩擦におけるstick状態とslip状態の間の遷移が単純な熱活性化過程ではなく、ある種の準安定状態間の転移である場合も存在しうることが判明した。 今後はこの知見を踏まえ、例えば上述のような準安定状態が出現している場合において摩擦力を現象論的に記述できるか、また、それを踏まえて非平衡状態一般に関する摩擦力と速度の関係を考察できるか、などの課題を研究する予定である。 この他、磁気摩擦の模型における静止摩擦力と動摩擦力の区別についての考察にも着手していく予定である。
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