研究課題/領域番号 |
21K13916
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永田 夏海 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60794328)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 暗黒物質 / 中性子星 / ミューオン磁気双極子モーメント / 大統一理論 / ミューオン異常磁気双極子モーメント / 標準模型を超える理論 / 素粒子論 / 天文物理学 |
研究開始時の研究の概要 |
素粒子標準模型を超える物理の存在を如何にして立証し検証するかという問題は,素粒子論における最重要課題の一つである。この課題に対するアプローチとして,本研究では,天文現象の観測を通じて新物理の兆候を捉える手法を考える。天文現象は,地上では実現不可能な環境を生み出すことができるため,実験では探ることが難しいような新物理模型をも探りうることが期待されるためである。種々の天文現象がどのような新粒子に感度を持つかを明らかにした上で,将来の観測によってそれらの粒子の存在を検証することを目標とする。
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研究実績の概要 |
中性子星の表面温度観測を通じて暗黒物質を探索する手法が近年盛んに議論されてる。とりわけ,中性子星に捕獲されたWIMP暗黒物質が対消滅することで中性子星を温める効果に着目し,『非常に古いのにも関わらず温かい中性子星』を見つけ出すことでWIMP暗黒物質の兆候を探る試みが研究されてきた。本年度の研究で私は,この暗黒物質探索手法を用いることで地上での実験では探索しえなかった暗黒物質候補をも探りうることを,2つの暗黒物質模型について明らかにした。
一つ目の仕事では,『電弱多重項暗黒物質』を研究した。この暗黒物質候補の核子弾性散乱断面積は一般に小さく,地上における暗黒物質直接探索実験でこの暗黒物質を検出するのが困難であることが知られている。一方中性子星上では,中性子が作り出す非常に強い重力によって暗黒物質が加速されるため,暗黒物質が別の多重項成分に変化する『非弾性散乱』が生じうる。この断面積はとても大きいため,暗黒物質は効率よく中性子星に捕獲され,中性子星が加熱される。本研究では,中性子星温度観測を用いた探索手法と暗黒物質直接探索実験による探索手法とがこの暗黒物質模型を検証するにあたり相補的な役割を担うことを示した。
二つ目の仕事では,『ミューオン異常磁気モーメントの実験結果に動機づけられた暗黒物質模型』を考察した。昨年度の研究と関連して,FermiLabで行われたミューオン異常磁気モーメントの測定結果を説明するような暗黒物質模型を具体的にとりあげ,この模型を中性子星温度観測を用いて検証する可能性を調べた。このような暗黒物質はミューオンと相互作用を行うが,中性子星内にはミューオンが多数存在するため,この相互作用を通じて暗黒物質は中性子星に捕獲される。このため,中性子星温度観測を用いた探索手法はこの種の暗黒物質模型を検証するのに非常に有力であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,上述した『中性子星の表面温度観測を通じて暗黒物質を探索する手法』に関する研究2件を含め計6本の論文を年度内に書き上げることができた。この点で,研究自体は精力的に行えたと考える。一方,当初予定していた,超新星を用いた新物理模型の探索に関する研究は現在進行中であり,その点を鑑みて『おおむね順調に進展している』とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,超新星爆発を用いて新物理を探る手法について主に研究する予定である。私はこれまでに,近傍超新星から飛来するアクシオンを検出する手法について研究し,将来のアクシオン・ヘリオスコープを用いる手法,HyperKamiokandeにおいて逆 Primakoff 過程を検出する手法,それぞれがアクシオン探索に有望であることを明らかにしてきた。これらの検出原理は共にアクシオン・光子相互作用に基づいているが,アクシオン・核子相互作用によって誘導される過程に着目すれば(結合定数が大きいことから)さらに多くの事象数が期待される。特に,超新星由来のアクシオンは O(10 - 100) MeV 程度の大きなエネルギーを持っていることから,原子核内の核子にアクシオンが吸収されそのエネルギーが受け渡されることで,原子核が破砕され得る。このアクシオンによる原子核の破砕反応に着目するのがアクシオン探索にとって極めて有望であると私は考えた。この反応過程で生じる不安定原子核の崩壊過程を検出することで,超新星由来のニュートリノ事象(これは不安定原子核が崩壊する前に終焉する)を避けつつアクシオンの兆候を探りうる点が,この手法の長所となっている。この手法を用いることで,現在稼働している KamLAND 実験および SuperKamiokande 実験,そして HyperKamiokande, JUNO, DUNE などの将来の大規模ニュートリノ実験においてアクシオンを発見しうるかを明らかにしたいと考えている。
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