研究課題/領域番号 |
21K13940
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今城 想平 大阪大学, 核物理研究センター, 特任研究員 (10796486)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 超冷中性子 / 中性子ガイド管 / BRDF / 反射モデル / 表面粗さ / 散漫散乱 |
研究開始時の研究の概要 |
超冷中性子(UCN)を光学的に輸送するガイド管の表面粗さに対応した反射モデルを検証する。J-PARC/MLF BL05 において中性子ドップラーシフターが供するパルスUCNを試験サンプルに複数の入射角において斜入射させ、散漫散乱に起因する反射回数に比例したパルスUCNの飛行時間分布の変形を測定し、拡散反射モデルを組み込んだ粒子輸送シミュレーションと比較する。試験されるガイド管はカナダTRIUMFで行なわれる中性子電気双極子能率探索実験において使用される。
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研究実績の概要 |
2021B期のJ-PARC MLF実験課題 (proposal No.: 2021B0309) にて行った超冷中性子(UCN)ガイド管のUCN輸送効率測定結果を可視光線の散漫散乱モデルであるマイクロファセットBRDFモデルを導入した中性子輸送シミュレーションを用いて詳細に解析した。そしてその結果を論文に纏め、プレプリントサーバーにアップロードするとともに査読誌に投稿した。論文は現在査読中である。 また、表面粗さサンプルを用いたUCN散乱方向測定を行う上で有用な2次元UCN検出器 CASCADE-Uを研究代表者の属するTUCAN実験の研究グループが購入したため、より厳密なUCN散乱実験を行うためにCASCADE-Uを用いるように計画を変更した。そしてCASCADE-Uを既存の実験セットアップに取り付けるためのダクト等を作成し、2022B期のJ-PARC MLF実験課題 (proposal No.: 2022B0265) において検出器の試運転を行った。この検出器は12.5mm間隔で縦横8個ずつ合計64個のUCN検出チャンネルを有している。 試運転では冷中性子ビームを用いた検出器中心部の5チャンネルのUCN検出効率および位置分解能の評価と、UCN測定を行った。この結果として、検出器の中性子検出効率については単チャンネル中心での効率は装置設計にほぼ一致する値が確認できたが、隣り合うチャンネル間では中性子の数え落としにより検出効率が10%程度減少することが判明した。また位置分解能に関しては、横方向については仕様通りの分解能を確認できたが、縦方向については一部のチャンネル間でクロストークまたは誤動作と思われる結果が得られた。従って、散乱実験を行う前に検出器の全チャンネルの中性子検出効率測定などのさらに精密な性能評価実験を行い、現状の検出器の問題点を正確に把握して改修などを検討しなければならないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
UCNの波長よりも大きいサイズの表面うねりによるUCN散乱の取り扱いに関してはモデル化して論文に纏めることができたが、波長より小さい表面粗さによるUCN散乱は我々のモデルでは説明できていない。この波長より小さな表面粗さの効果まで微視的な観点で説明することがこの研究計画の最終目標である。その理論モデルの評価のためには粗さを持つ表面サンプルからの散乱UCNの方向分布を正確に把握する実験が必要であり、その実験には2次元検出器であるCASCADE-Uを用いるのが最も効果的だと考えられる。したがってまずはこのCASCADE-Uの位置分解能や検出効率を正確に把握する必要がある。しかし我々が入手した検出器には一部のチャンネル間にクロストークが生じる問題が見つかっており、この問題点のより詳細な洗い出しと解決に時間がかかる可能性がある。そのためやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
CASCADE-U検出器を利用できるようになったため、表面粗さを顕微鏡で事前に測定した平板サンプルに幅10mm程度にコリメートした発散角度±6°以下のUCNを当てて1回反射で反射UCNの散乱方向分布を測定するよう実験方針を変更した。この実験ではUCNの波長より大きな粗さが支配的なサンプル、波長より小さな粗さが支配的なサンプル、それらの中間領域のサンプルの3つを測定し、中間領域の粗さが大小2つの粗さスケールに適合するUCN散乱モデルの組み合わせで記述できるかをシミュレーションと比較して評価する。実験はJ-PARC MLFの2023B期を予定しており、すでにMLFに短期課題を申請済みである。この実験については2023年末に向けてサンプルおよび実験セットアップの準備を進める。 また、この実験計画を成功させるためにはCASCADE-Uの8×8個の全チャンネルのUCN検出効率と位置分解能、チャンネル間のオーバーラップを正確に把握し、シミュレーションに入力しなければならない。前年度で見つかったチャンネル間のクロストークの問題については中性子ビームを用いた検出器性能評価実験を2023年5月末に行い、現状の検出器の不具合の有無を正確に見極める予定である。そして不具合が認められた場合、メーカー修理などで2023年秋までに問題を解決し、同年中に中性子ビームを用いた検出器性能の精密評価実験を再度行う。
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