研究課題
若手研究
本研究では電弱統一理論の検証および新物理の探索へ向け、素粒子のみからなる水素様純レプトン原子ミューオニウムの1S-2S遷移の精密分光を行う。Yb添加ファイバー増幅器を用いた1S-2S遷移2光子励起用高出力光源を開発し、先行研究より3桁小さい不確かさ10 kHzでの1S-2S遷移周波数の測定を目標とする。これにより、基礎物理定数であるミュー粒子質量の決定精度を向上させ、電弱スケールの新物理探査を目指す。
本研究は,水素様純レプトン原子ミューオニウムの1S-2S遷移の精密分光により,基礎物理定数であるミュー粒子質量の決定精度を向上させることを目標とする.ミュー粒子は強い相互作用(QCD)の影響を受けないため,その物理定数の精密測定は量子電磁力学(QED)のみならず,電弱スケールの新物理の探索へともつながる.現在ミュー粒子に関する基礎物理定数の不確かさは,その質量決定精度に由来する不確かさにより大きく制限されており,近年著しい進展を見せるレーザー原子分光技術を駆使しミューオニウムの分光を行い,電弱統一および新物理の効果を精密に検証するツールとしての可能性を拓く.本研究では,1S-2S遷移精密分光用の244 nm高出力CW励起光源の開発を進め,基本波光源である976 nm高出力光源の開発を行った.これまでに,photodarkening等による増幅器の出力が時間減衰する問題を克服し長時間安定な出力を達成した.また,2段構成にしたYb添加ファイバ増幅器のテストを行い、目標である10 Wの出力が達成可能であることを確認した。J-PARCの高強度ミュー粒子ビームラインにおいての実験では,244 nmパルスレーザーを用いたミューオニウムの1S-2S遷移分光実験を行い,1S-2SのF=1-F'=1間遷移を先行研究の約60倍の信号レートで観測する事に成功した.また,F=1-F'=1間遷移よりも遷移レートが低く,先行研究での統計量では観測が困難だった別超微細構造間であるF=0-F'=0間遷移を世界で初めて観測した.
3: やや遅れている
Photodarkeningが主な原因と推測されるYb添加ファイバ増幅器出力の時間減衰は,母材にリン珪酸ガラスを使用したYb添加ファイバ増幅器を開発すること時間変動を抑えることに成功し、安定した数 Wの976 nm光を出力することに成功した.また,2段構成にしたYb添加ファイバ増幅器の試験を行い,1段目から発生する増幅自然放出光などの976 nm以外の成分を除去することで,2段目の増幅器で976 nm光を目標である10 W程度まで増幅することが可能であることを確認した.しかし,市販のリン珪酸ガラスYb添加ファイバは偏波保持構造を有していないため,ファイバ内を伝搬するレーザーの偏波状態を一定に保つことが困難である,偏波の不安定性は後段の波長変換効率を変動させ,244 nm出力パワーの時間安定度の悪化につながるため,現在その対策を進めている.
上述の問題の対策として,1:母材にリン珪酸ガラスが使用された偏波保持ファイバの探索,もしくは特注.2:リン珪酸ガラスYb添加ファイバを使用しない出力変動の小さい偏波保持Yb添加ファイバ増幅器の開発.を同時に進行している.2の具体策として,低出力域ではリン珪酸ガラスYb添加ファイバでなくともPhotodarkeningが抑制されることが予想されるため,複数台の低出力Yb添加ファイバ増幅器をコヒーレント加算する方式の準備を進めている.偏波状態の問題を解決した10 Wクラスの976 nm高出力光源開発後は,第四高調波発生部の開発に取り掛かる.また同時に976 nm光の線幅狭窄化、および周波数安定化を行う。244 nm高出力CW励起光源の開発が完了次第J-PARCに装置を搬入する.
すべて 2023 2022 2021
すべて 学会発表 (10件)