研究課題/領域番号 |
21K13954
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 京都大学 (2022) 東京大学 (2021) |
研究代表者 |
大屋 瑶子 京都大学, 基礎物理学研究所, 講師 (00813908)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 星形成 / 機械学習 / 深層学習 / 星間物質 / 星間化学 / 電波天文学 |
研究開始時の研究の概要 |
若い太陽型原始星まわりでの惑星系形成と、そこでの物質進化を探ることは、我々が住む地球がもつ豊かな環境の起源の理解に直結する重要な研究課題の一つである。本研究課題では、惑星系誕生の場である原始星円盤の形成過程の観測的研究に機械学習を導入することで、データがもつ情報を最大限に引き出すための新たな解析手法の開発・実践・検証を行う。現在、電波観測研究の分野では、膨大な観測データの効率的な活用が課題になっている。本研究課題では、機械学習と物理モデル計算を併用した無バイアスな解析手法の開発により、この問題に正面から取り組む。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、原始星に付随する円盤構造形成の観測研究に、機械学習および深層学習を導入して、観測データがもつ情報を最大限に抽出するための新しい解析手法を開発し、その実践と検証を行うことを目的とする。解析には、国際共同大型電波干渉計アルマ (ALMA) を使った観測データを使用する。 教師あり機械学習の一種であるサポートベクターマシーン (Support Vector Machine; SVM) と、教師あり深層学習の一種である三次元畳み込みニューラルネットワーク (3-Dimensional Convolutional Neural Network; 3DCNN) を用いて、ガスの三次元の速度構造を判別するモデルを作成し、実際のALMA観測データに適用した。モデルの学習には、二種類の異なる円盤構造の物理モデルによって生成した擬似観測データを使用した。SVMと3DCNNのいずれを用いた場合でも、テスト用の擬似観測データに対して高い汎化性能を示した。学習済みのモデルを、若い低質量原始星連星IRAS 16293-2422 Source Aで観測された18本の分子輝線データに適用し、各分子輝線を、ケプラー回転する星周円盤のみを捉える輝線と、回転・落下する周連星系構造を主に捉える輝線の二種に分類することに成功した。切り分けられたガス構造の比角運動量を定量的に評価し、アウトフロー構造の比角運動量と比較することで、円盤形成領域での角運動量輸送に観測的に取り組む手法を開拓した。 この成果について、国内外の学会で発表するとともに、学術論文として報告した。さらに、この解析手法を、大質量原始星天体の円盤構造および活動銀河核を取り巻くトーラス構造に応用するため、各分野の観測研究を専門とする研究者との議論を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
若い低質量原始星天体において、円盤構造を形成する領域のガスの速度構造は二種類に大別される。一方は回転・落下するエンベロープガスで、もう一方はその内側のケプラー回転円盤である。加えて、原始星およびこれらの円盤構造から吹き出すアウトフロー構造がある。観測されたガスの速度構造を解析するには、これらの物理構造を切り分け、適切にモデル化することが不可欠である。これまでの研究で、ある種の分子輝線がこれらのガス構造を選択的に捉える「分子マーカー」として働くことを示してきた。しかし、分子マーカーとして有用な分子輝線は、天体ごとの化学的多様性に依存して異なるため、どの輝線が解析に適しているのかを事前に判別することが重要である。本研究課題では、分子輝線が捉える速度構造を機械学習および深層学習を導入して判別する手法が、実際の電波観測データの解析において、複雑なガス構造の中に埋もれたケプラー回転円盤成分を抽出するのに有効であることを示した。この成果について、招待講演を含む国内外の学会での発表を行うとともに、学術論文として報告した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題で開発した解析手法を、より多くの天体での観測研究に適用し、その有効性を実証するとともに、観測データの科学的解釈に繋げる。現在、ALMAを使用した大型観測プロジェクトFAUSTによる13個の低質量原始星天体での観測データを取得し、解析を進めている。これまでの解析では、各天体の物理構造を考慮することで、擬似観測データのパラメータ空間を制限し、計算資源を削減してきた。今後は、より一般化された学習済みモデルを作成し、より多くの天体へ適用できるように改良する。より膨大な擬似観測データを作成し、保持するため、大容量ストレージを措置する。改良したモデルを用いて、取得済みの観測データの解析を加速し、この解析手法の確立を目指す。 回転円盤構造の形成は、低質量原始星天体だけでなく、大質量原始星天体や活動銀河核などでも普遍的に見られる現象である。このため、空間スケールが大きく異なるこれらの天体についても、本研究課題で開発した解析手法が適用できる可能性がある。実際、活動銀河核を取り巻くトーラス構造のALMA観測データについて、低質量原始星天体で用いたものと同じ物理モデルでの解析が有効であることを示し、当該分野を中心とした国際会議で招待講演として報告した。この着想をもとに、各分野での観測研究を専門とする国内外の研究者と連携し、観測された速度構造の判別およびモデル化を開始している。
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